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女中が再び執務室に熱いポットを運んできた時には、じゃんけんでの勝敗は決していた。一番に勝った者から順にパイののった皿を選び、室内に備え付けられているソファへと腰かける。少年は二番目と決まったので、最初に選ぶことになった部下は大層緊張した面持ちで皿を見比べていた。
全員が皿を選び終え、紅茶が注がれたカップがローテーブルに静かに置かれるのを待ってから、少年は部下たちに紅茶とパイを勧める。ここまで来ると四人とも自分たちの報告は後回しにして、主の気が済むまでこのお茶会に付き合うしかなかった。
執務室の大きな窓の外には、ただただ蒼い空と恵みある草原が広がっていて、麗かな陽射しがすべてを優しく包んでいる。唯一不自然さがあるとすれば、空には鳥の影がなく、草を食む動物の姿も農耕や放牧に励む人影もまったく見えない点だろう。この場所ではそういったものは見ることはできない。
それらを気にすることなく、少年はあくまで自分のペースを崩さずにパイを口に運んだ。次の瞬間には弾けるような笑顔を浮かべてふたくち、みくちと食べ進める。四人も主にならってパイを食べ、紅茶を飲んだ。
「久々にゆっくりとした時間を過ごせます」
「このパイも相変わらず美味ですし」
「そうであろう。やはりおまえたちを呼んでよかった」
あまりの主の上機嫌ぶりに四人からは自然と笑みがこぼれる。しかし同時にこの小さなお茶会をなんとしても無事に終わらせなければならないとも思った。
恐らく少年はお茶会の間、いかなる事象が起ころうとも指一本動かすつもりはないだろう。むしろ下手にこの穏やかな時間を中断させるようなことが起きてしまったら、それこそ最悪の事態を招きかねない。四人の部下はそっと目配せをして、その考えを確かめ合った。そうして今、この時に何事も起きてくれるなとそれぞれが心の中で強く願う。
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