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執務室の大きな窓から爽やかな風が入ってきて、全員の髪や衣を優しくなでていった。その場の全員が最後の一人の意見を待っている。彼は少しの間考えてから主へと向き直った。
「御前試合を簡略化致しましょう」
「どういうことだ?」
「私の管轄する東の小さな島国に三すくみの法則を利用した『じゃんけん』という拳遊びがございます」
別の部下が「ああ、あれか」と小さく呟き、主である少年に進言する。
「確かほかの地でも同じようなものがあったと記憶しております」
「すぐに決着するのか?」
先程、御前試合に何時間要するのかを考えてうんさりしてしまった少年は、簡略化することに懐疑的だった。しかし、三人目の部下の言葉を聞いて、少年はすぐに考えを変えることとなる。
「この人数ならばごく短時間で決着致します」
「ならば、パイは八等分に切り分けて誤差を最小限にし、じゃんけんの勝者から順に好きな皿を選ぼう」
やっとパイをどのように分けるかが決まり、部下はもちろんのこと待機していた女中も心の中でほっと胸をなでおろした。四人の部下にしてみれば、パイを食べ終えた主には、ぜひとも報告を聞いてもらいたい。
当の少年は書類を読んでいる時のように真面目な顔つきで、早速パイにナイフを入れていた。切り口からは芳醇な香りと共に果実がとろりとこぼれ落ちる。嬉しそうにしていた少年だったが八等分したところで顔を上げると、大切なことに気がついたと言わんばかりに女中を呼んだ。一体何事だろうかと全員が姿勢を正す。
「紅茶が冷めた。淹れ直してくれ」
再び脱力した四人の部下を余所に、女中は主に言われた通り紅茶を淹れ直すために楚々と退室して行った。
少年は切り分けたパイを皿に移しながら、じゃんけんのルールをひと通り確認する。
「石と紙とはさみを模した拳を使うのか」
「さようでございます」
自らの小さな白い手を、開いたり結んだりしている少年は「ふむ」とひとつうなずいた。
「確かにコイントスやくじ引きよりも決着は早そうだ」
その姿を見ていた部下たちは、もしやと思い主に尋ねる。
「御自ら参戦なさるおつもりですか?」
「おもしろそうではないか」
部下たちはもっとも見目がよく大きなパイを主に食べてもらおうと考えており、四人だけで皿を選ぶ順番をじゃんけんで決めようとしていた。しかし、この主は楽しそうなことはなんでも自分で試したがる節がある。今回も例にもれずじゃんけんをすると言い出した。
だからといって、たとえじゃんけんで最下位になったとしても、少年がむくれたり不機嫌になるようなことはないことも解っている。少年は小さな背中に背負っている責任をまっとうするに相応しい人格を兼ね備えていたし、何よりも見た目にそぐわず気が遠くなるほど長い時を生きてきたのだ。
「では、始めよう」
そして、その言葉に逆らうことができる者などいないのも、また事実だった。
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