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「紅茶のお代わりはどうだ? パイもまだある」
金色の髪と白い衣を揺らしながら少年はワゴンへと小走りに寄っていった。
「我々はもう十分いただきました」
「そうか?」
ソファの方をふり返って首を傾げた少年は、四人の目にいつも見ている姿よりもいくぶんか幼く映る。
それがなんだかとても微笑ましくて、四人の部下――ミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエル――は、近くにいた者同士で視線を交わし、くすりと笑った。ガブリエルが小さく咳払いをしてから主へ進言する。
「貴方様こそ召し上がってください」
四人の御前天使たちは主がこのアップルパイをいたく気に入っていることをよく知っていた。ローテーブルに音もなくティーカップを置いたミカエルが立ち上がって、主のもとへと歩いていき少年から皿を受け取る。
「私が取りましょう。ウリエルは紅茶を」
ミカエルに名指しされたウリエルは、少年のティーカップに紅茶のお代わりを淹れるようにと女中に合図を送った。少年はおとなしくソファへと戻り、ラファエルとガブリエルの間に座ると、にこやかに微笑みながらアップルパイと紅茶が来るのを待つ。
ラファエルは自身が管轄している東で起きている出来事の報告がしたかったし、ガブリエルも同様に西の状況を早く伝えたいと考えていたが、かたわらの少年に無粋なことを言いはしなかった。
「毎日食べてもよいくらいなのに」
「一応貴方様が禁じた果実であることをお忘れなきよう」
少年の言葉にウリエルが釘を刺すと、その場が笑いに包まれる。少年はややぶっきらぼうに「わかっている」とだけ答えて、アップルパイを頬張った。
そんな風にしてアップルパイと紅茶を味わい、人形のように整った顔でかわいらしく笑う少年には、多少の書類仕事の遅れも下界の東西南北で起きるさまざまな災害や争いも、すべては瞬きをする間に過ぎていくような人間の世界の小さな事象に過ぎない。今この瞬間に自分と同じような時を生きていた四人の天使たちと、大好きなアップルパイを楽しく食べることの方がよほど重要なことなのだ。
どこまでも続く美しい景色の中にたたずむ巨大な神殿の一角で開かれたささやかなお茶会は和やかに進んでいく。残酷なほど澄み渡る天上の青空の下、神たる少年はとても楽しくてしあわせなひとときを堪能した。
了
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