42人が本棚に入れています
本棚に追加
サウンド・オブ・サイレンス 2
真理は地下鉄で新大阪駅へ向かうと、新幹線ののぞみへ乗車した。時刻は七時半を回っていた。十一時には実流のもとへ着くだろう。
スマートフォンで実流にメッセージを送る。「東京へ行くから、家で待ってろ」
すぐに返事が来た。「実家に帰るのか?」
「大事な話がある」、それだけ打ってメッセージを再送する。
「わかった。気をつけて」
返信を確認すると、真理はスマートフォンをバッグにしまった。
日曜日の新幹線の座席は八割方埋まっていた。窓に叩きつける雨が、真理の目の前を横に流れていく。
通路の向こうの男が、イヤホンで音楽を聴いていた。
(雑踏でイヤホンをしている人たちが、誰かひとりでも僕の歌を聴いていてくれたらと思うんだ)
学生時代の実流の言葉を思い出す。
実流と鎌田とは、大学のゼミがいっしょだった。大学を卒業後、真理と鎌田は東京の会社へ就職したが、実流はミュージシャンの道を選んだ。昼間はアルバイト、夜はバーやパーティで歌を歌っている。
実流は高校時代から歌を作っていた。が、動画サイトでも自作の歌の再生回数は少なく、ヒットソングをカバーした動画のほうが閲覧されているという。
実流の歌は恋愛の歌でも人生のエールでもない。暗闇から聞こえる実流の孤独の歌だ。恋の歌をなぜ作らないのかと真理が聞いたら、恋愛を歌うとまっさきに鎌田にバレそうで怖いという言葉が返ってきた。
自分の恋愛を語らないで何がミュージシャンだ。イライラと人差し指で太股を叩く。あれだけ鎌田を目で追っていたのに、実流は誰よりも鎌田のことを恐れていた。
入り口の電光掲示板に天気予報が流れていた。東京は晴れのち雨。いつ天気が変わるのかわからないが、自分はかならず、新幹線で雨雲を追い越す。
最初のコメントを投稿しよう!