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会社から少し離れた飲み屋街の雑居ビルから
「次!カラオケ!カラオケ!」
と叫びながら歩く木下の後ろを、皆が歩いていた。
「あっ、さっきのお店にハンカチ忘れてきちゃった」
華がそう呟き、皆にちょっと取りに行くと言って先ほどまでいた居酒屋に戻っていった。
その後姿を、少し酔った顔で心配そうに見つめる理久。
その理久を、木下と川瀬はチラチラと見ていた。
「なんかさ…、進展なさすぎだよな…あの二人」
川瀬が木下に小さい声で呟くと、
「ですよね…。なんかあまりにもって感じで拍子抜けしてます、俺」
そう答えた。
少しして、
「俺、ちょっと見てくるわ」
と、華を追いかけるように小走りに戻る理久。
その理久の後姿を見て、
「課長!私も」
「私も!」
と、美咲と愛美が追いかけた。
三人の後姿を見て、慌てて川瀬と木下も後を追いかけた。
その頃、お店で預かってくれていたハンカチをレジの近くにいた店員から受け取り、エレベーターに乗り込んだ華に、酔っ払った男がぶつかってきた。
「お〜、すまん、すまん」
そう言う男に、
「大丈夫です」
と微笑む華。
「あれ?可愛いねえ。おじさん、今から地下のスナックに行くの。君もどう?」
と、声をかけられて、戸惑う華。
「えっと、あっ、もう一階に着くので、私はここで」
と、急いで開いたエレベーターの外へと逃げようとすると、
「待って!待って!ここじゃないよ」
そう言って華の腕を掴んだまま離さない男に、華は涙目になりながら、
「離してください!」
と叫ぶと、後ろから、
「離せ!」
と、怒鳴りながらエレベーターの外へと華の肩を抱き寄せる理久。
突然の理久の登場に安堵して泣き出してしまった華。
酔っ払いのおじさんは、エレベーターから降り、華の泣き顔に申し訳無さそうに、
「お嬢ちゃん、ごめんね」
そう謝って立ちすくんでいた。
華を抱きしめながら、
「もうしないでくださいね」
そう言って睨む理久に、何度も頭を下げて立ち去った男。
一部始終を見ていた美咲達は、泣きじゃくる華を優しく抱き締める理久の姿を見たまま、声がかけられずにいた。
しばらくして、顔を上げた華が、美咲達に気付き、
「あっ!待たせてしまって、ごめんなさい。楽しい時間も台無しに…」
そう言って謝る華に、
「華ちゃんは何も悪くないんだから、気にしちゃ駄目だよ。また華ちゃんがこっちに遊びに来た時、出掛けても良いし、リベンジはいつでも出来るから。今日は帰ろうか」
美咲のその言葉に皆が頷き、その場で解散となった。
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