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怪しい男
華が会社を去る予定だった日の前日の夕方。
十蔵がリビングで寛いでいると、
「こんにちは。十蔵さん、居るかね?」
と、玄関から声が聞こえ、玄関へ向かうとそこには、町内会長の林と隣のアパートに住む池田夫妻が少し困った顔で立っていた。
玄関横の和室へと案内をして、お茶を出した十蔵に対して、林と池田夫妻は正座をして下を向いていた。
「どうかしたかね?」
そう問いかける十蔵に対して、
「十蔵さん!申し訳ない!」
と、頭を下げた林。
池田夫妻は下を向いたままだ。
「何が?どうしたんじゃ?」
そう問いかける十蔵に、
「実はな…、少し前から変な男がこの町内をうろついていてな…。どうやら華ちゃん親子の事を何か聞き出そうとしている様子でな…。皆適当にあしらっていたんだが、一人が『この家の家事手伝いをしている』と話してしまってな…。その時の男のニヤリとした顔が気になったようで、私の所に相談に来たんだよ…。十蔵さんには直接怖くて謝れないとも言っててな…」
そう話した林。
「私もね、話をしてしまった本人と話をしたんだけど、後悔で泣いてしまって…。ここへも謝りに来なくては行けないんだろうけど…とも」
と、池田夫妻の妻の美樹も、十蔵にそう付け加えて話した。
「そうか…。いや、その話してしまった人には気にするなと伝えておくれ。悪気があって話した訳じゃないだろうしな」
そう答える十蔵に、少し安堵した顔をした池田夫妻と林。
「ちょっと待ってておくれ」
そう話すと、十蔵は携帯電話で誰かに電話をかけた。
「理久か?ワシじゃ。華ちゃんだかな、どうだね?慣れたか?慣れたならもう少しそっちに住まわせるから、ホテルの延長の手続きをお前に頼む」
そう言って電話を切った十蔵。
林達の方へ視線を移して、
「しばらく華ちゃんは、理久のいる所にいるから、華ちゃんに知られることは無い。今のうちに、男を追い払わねば」
そう話すと、林達も頷いた。
4人で考えた案は『おびき寄せ作戦』
その男が現れたら、華ちゃんが優雅に十蔵の家で暮らしていると町の人に話してもらう。
十蔵の家には、交番のお巡りさんにも見回りを強化してもらうように頼み、池田夫妻と町内会長の林にも、暇があれば来てもらうように頼んでいた。
準備は万端。
さぁ、いつでも来い!
と、十蔵は思っていた。
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