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理久の気持ち
携帯電話のコール音が響いた。
全く連絡などしてこない十蔵からの着信に、理久は不思議に思いながら電話に出ると、
「香菜からの案でな、ワシの手伝いを華ちゃんにさせるなら、会社がどんな感じなのかも知っておいた方がいいんじゃないかと言われてな。一ヶ月だけ、華ちゃんをお前の部署で面倒見てもらうから、華ちゃんが困らないようにちゃんと見てくれよ」
初めて聞いた決定事項とともに頼まれた内容に戸惑い、言葉が出てこない理久。
「聞いてるか?」
「聞いてるよ」
「泊まるのは、会社のすぐ近くにある『アールホテル』だ」
「ホテル?会社からは距離があるけど、母さん達の家は?」
「家は駄目だ。華ちゃんが気を使うし、家事も手伝うと言いかねない。ホテルなら何もしないでいいからな〜」
「あ〜、家事はさせたくないって事ね」
「そうだ」
「わかったよ。仕事でフォローして、ホテルに送迎しろって事だね」
「そうだ。頼んだぞ」
「わかったよ」
会話が終わり、切られた電話を見つめながら、
「華が、こっちに来るんだ…」
そう思うと、少し胸が苦しくなった理久。
『イヤイヤ、華は妹だ、妹だ』
自分に言い聞かせる理久。
妹が欲しくて華に『にいに』と呼ばせたのに、華に『にいに』と呼ばれる事が苦しくなって名前呼びに変えさせた日の事を、思い出した。
華を、好きになってもいいと思う。
誰にも反対されない…と思う。
でも、華が困るかもしれない…。
華は、俺を異性としては見ないだろう…。
ただ、
ただ、
思うんだ。
華には、笑っていてほしいと。
どんな形でも、華の笑顔が見られるのなら、俺の想いはずっとこのまま…。
理久が電話を見つめながら、自分の想いを考えていると、
「成田課長、部長が全員集合と呼んでます」
と、部下の木下から声がかかった。
「今行く」
頭で考えていた想いを振り切るように、気持ちを切り替えて木下を追いかけた。
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