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“その業界”ではそこそこの売上高を誇る企業。二階の管理部に狐塚のデスクはあるものの、机も端末もほとんど使っていない。社員は良くも悪くもドライで、挨拶はするが彼の顔をよく見る者はいない。狐塚は心身共にボロボロであることを誰にも悟られずに自分の席についた。  朝のミーティングは聞いても聞かなくても派遣社員の狐塚にはあまり関係ない。やることは毎日決まっている。ミーティング終了後はすぐに席を立ってエレベーターで地下へ向かった。  ビルの地下は駐車場を除いてほぼ全てのスペースを倉庫に割いている。狐塚は半年かけてここを整理する。整理と言っても仕事の内容を聞く限り廃棄がメインだ。今ここにあるものをリストアップし、支社にデータを送り、許可が下りたら廃棄する。これを今年度中に終わらせる。それが狐塚の仕事だ。  身体を動かせば辛いことも忘れられる、わけがなく、誰も来ないことを良いことに狐塚は涙をボロボロ溢しながら段ボール箱の蓋を開け鼻を啜りながら端末に物品を入力していた。「お昼休みですよー」という声で我に返った。作業服の袖で乱暴に顔を擦ってから涙が詰まったような声で「はぁい」と答えた。
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