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羽衣伝説は知っているだろうか。
外界に降りた天女が、羽衣を脱ぎ水浴びをしている間に人間によって羽衣を奪われ、結婚を迫られ、その男と夫婦になり、子を産んだ。後に隠された羽衣をみつけて天に帰ったという話だ。
勘違いしないでほしいのは、我々の先祖は、天女にそのような仕打ちは決してしていないことだ。
むしろ、天女に見初められたのだ。
よほど器量のいい男だったのか、天女は外界に留まり、男と夫婦になることを切望した。
誠実な男は、一度天女に天界に帰り、あなたの父なる者に夫婦となる許しをもらうことができたら夫婦になろうと約束を交わした。
長い年月をかけて、やっと人間と夫婦となることの許しをもらった天女が外界に降り立つと、人間の男はすでに家庭を築いていた。
約束を反故にされたのか。
裏切られた天女が、男の妻の顔をみた瞬間驚愕した。
男は約束など破ってなどいなかった。
なぜなら、男の妻は天女そっくりの女だった。
その天女には、双子の妹がいた。
姉とは入れ違い外界に降り立った妹もまたその男を見初めた。
男は何も疑わず、姉と思っている天女を妻に迎えたということだ。
天界から夫婦として認められた男の一族は、未来永劫の繁栄に預かれることとなった。
一方の姉の天女は、外界に降り立つ時には羽衣はすでに消滅していて、天界に帰るすべはない。
自分が手に入れるはずの幸せはもはやない。
天界に認めてもらうためにかけた長年の歳月は全て無駄だった。
姉天女は行く当てもない外界で深い悲しみに暮れた。
男と妹天女の間にやがて可愛い女児が生まれた。
姉天女は隙をみて、男の家に侵入し赤子を腕に抱いた。
おまえは本当に父親そっくりだね。
この子とこのまま一緒にいなくなってしまおうと邪な考えがよぎったが、愛する男に悲しい思いをさせてはならないと良心が引き止めて、赤子をそっと下ろしたと同時に、男が家に帰ってきて鉢合わせをした。
男は驚いた顔をみせて、姉天女になにかを声をかけようと口を開く前に、
「私は貴方と結ばれませんでした。 しかし、貴方の子孫にいずれ貴方の面影に似ている男児が生まれた時は、わたしはその子孫と婚姻を結びます。 そして、その男児は私が現れるまで女難に見舞われるでしょう」
姉天女のほうが先に口火を切り、その後まばゆい光に姿を変えて、男の家から勢いよく飛び出していった。
男が光の行先を追うと、遠くの山の方に向かって消えていった。
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