青い春にフラレた少年の受難

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 大叔父の話はそこで終わった。 「女難ってなんですか?」  聞き慣れない単語のほうが気になって、瞬一はたずねた。 「わかりやすくいえば、恋愛ごとがことごとくうまくいかないということだ。年頃の君には少々きつい環境になるかもしれない」 「かもってことは、その可能性はあっても低いってことですか?」 「そうじゃなーー」  それを聞いて、瞬一が安堵しかけた時、 「ーーだが、天女に見初められたら必ず女難の呪いを受けてしまう」  大叔父からの言葉が、一気に一抹の不安が心全体を覆う威力を放った。  天女に惚れられたら、これからという俺の青春が花咲かないってことか。  単なる暇老人相手の世間話のために呼ばれたわけではないと分かっていたが、まさか一族に関わるそして自分の人生を左右する話だったとは思わなかったので、もうすでに動揺はしている。 「天宝山という山を知っているか」 「あ、はい。 あ! もしかしたらそこに行けば天女から受けた呪いがなくなるとかですか?」 「あっいや、 その天宝山にさきほど話した天女がいるとされている。 だから、瞬一くんがそこに行かない限り、天女は瞬一くんに女難の呪いをかけることができないんだよ」  大叔父の言葉を聞くと立ちどころに瞬一くんの顔つきは、真っ青になっていった。それにはまだ気づいていない大叔父は話を続けた。 「そもそも、 ご先祖様の顔の面影など私たちが知るよしもないのだから、瞬一くんをここに呼んだのはあくまでも一族からの言い伝えを次の代に伝えるためなんじゃよ」  瞬一は言えなかった。  なぜなら、これを話せば大叔父が卒倒するじゃないかと思ったことだった。  つい数日前に、高校の校外学習の一環で、その天宝山に登ったのだ。  なんなら、途中で自分一人だけなんの脈絡もなく体調不良に見舞われた。  頑張って愛想よくして、肝心なことはもう言える勇気がなかった。    大叔父の訃報を聞いたのは、それからすぐのことだった。  
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