青い春にフラレた少年の受難

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 数日後、瞬一はある場所に向かった。  大叔父の言っていた早川一族に脈々と受け継がれているとされる呪いを、果たして自分が受けているのかということだ。  校外学習の一環で登っただけの例の天宝山の話を聞いてから、瞬一は怯えに怯えていた。  あの日大叔父の家を出てから、ポーカーフェイスを気取っているおかげで家族の誰もがまだ気づいていない。  大叔父の大層立派だったお屋敷よりは広くはないが、それでも立派な黒を基調とした屋敷が見えてきた。  近くまでくると、屋敷の前に幾人の姿があり、屋敷を警備する者たちとなにやら揉めている状況だとわかった。 「お願いします! 先生に会わしてください!」 「先生のお力を必要としているんです!」 「どうかお取次ぎを!!」  だが、どんなに懇願したところで、屈曲の体格をした警備たちが首を縦に振ることも、屋敷に入れることなど決してないのだ。   なぜなら。 「お帰りください。貴方たちが空井様と会うことは未来永劫ありません!!」  警備の一人が瞬一の姿に気づくと、力加減なく群がる者たちを一気にアスファルト押し出して、別の警備が屋敷の中へ続く玄関の扉を開けてくれた。 「なぜあのこどもは入れるんだよ!!」   押し出されアスファルトに尻もちをついた者が立ち上がりながら怒号を飛ばした。 「答える必要などない」  背後で扉が閉まると、先程までの騒ぎのやり取りはぷつりと途絶えた。  長いアプローチを抜けて、玄関の格子戸を開けて中に足を踏み入れた途端に、かすかに耳元にリーンという鈴の音が聞こえた。  しんとした奥の廊下から、物音がこちらに向かってくるのが分かった。  奥から出てきたのは、瞬一と同じ年格好の和服少年で、瞬一の姿をみるや足を止めた。 「電話くらい寄越せよ。 上方早川かと思って焦った」 「悪いな、下方早川で。ちょっと龍ちゃんに視てほしいんだよ」    この屋敷に住む空井龍之介は、瞬一の幼馴染であり親友であり、早川一族お抱えの占星術師の後継者であった。  なので早川家の者しかこの屋敷に入ることはできない。  上方早川とは早川グループに所属する親族を指しており、下方早川はそれに準じる親族を指している。  まだ学生の身分である瞬一は下方早川に分類される。  空井一族は、先祖の頃から受け継がれる視える能力を使い、代々占星術師を生業をしていた。政治家や著名人や経営者などがそれを聞きつけて連日押しかけているが、まだ誰もその門をくぐった者はいない。
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