青い春にフラレた少年の受難

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 本来なら、早川家から正式な手続きを取り、日取りを打ち合わせてのちに空井家のほうに赴くのが規則になっている。  のちの後継者となる空井龍之介はまだ見習いの身なので、まだ早川家から正式な依頼を受けることはできない。  一方の早川瞬一も学生の身分の為、空井家に正式な依頼をする権限はない。  瞬一はそもそも、占星術というものに抵抗があり、たとえ龍之介の視える能力を知っていても、彼にそれを頼むことはしなかった。  幼い頃から純粋な友情を築き、今では気を許せる親友の一人だった。  瞬一は、数日前に亡くなった大叔父から聞いた先祖代々に語り継がれている天女の呪いについて、龍之介に説明した。  二人がいる龍之介の部屋は質素で、この会話が廊下を通る者に聞かれないように、適当なYouTube動画をテレビで流した。  龍之介は目を閉じて俯き、腕を組んで呼吸を整える。  そして、静かに顔を上げたその目は瞬一を真っ直ぐに捉えて、全てを見通されているという感覚が全身を伝わってきて目を反らすことができなかった。  不思議な時間が長いようであっという間に終わった。 「瞬一、確かにおまえはなにかに憑かれている」  親友だからといって躊躇はせず、はっきりと視えたものを伝えた。 「なにか? 天女の呪いじゃなくて?」 「赤や青などあらゆる色の鎖がぐるぐると体全身に巻きついている。 唯一顔だけが無事だ。 天宝山に登った時に、体調不良を起こしたのはおそらくその日にこの巻きついた数多の鎖が原因だろう。 これが天女の呪いかは、今の俺では詳しくは分からない。だが、こういうものをみた記録は空井家にはない。 だが、これは早川一族の一大事だ。 すぐさま原因を追究しないとダメだ。 ちょっと親父を呼んでくる」  口数が徐々に独り言へと変わっていき、顔色も少しずつ余裕がなくなってきて、龍之介は途端に立ち上がり、現当主の居所を探しに勢いよく部屋を出た。  親友の初めてみるその姿に、瞬一のほうも絶句するしかなく、少しでも現実逃避したくて、現当主の空井龍太郎を連れて龍之介が戻って来るまで気絶していた。 「瞬一さん、 気絶したあなたに気をしっかり持つようにと言うのは酷なことですが、よく聞いてください」  意識を取り戻した瞬一に、龍太郎から早速告げられるのは十代にはやはり残酷だった。 「あなたにかけられているのは呪いです。 あいにく我々はそれを解く術を持ち合わせていません。 ここにいる龍之介が責任をもってその解明にあたります。なので、それまでどうか穏やかな学生生活を送ってくださいませ」  瞬一は意識がまた遠のいていくのが分かった。  龍太郎さんの口調は優しいが、要約するとこうだ。  君に青春は来ない。
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