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まだ、実感が湧かない。
早川瞬一は、自室のベッドの上に、制服のまま仰向けの格好で天井をぼぅと眺めていた。
大叔父の寿一郎さんが亡くなったこと。
享年百歳。世間からは大往生だったといわれる年齢だ。
その一報を受けたのが、瞬一が十六歳になる前日だった。
亡くなる数日前に、寿一郎さんと話す機会があった。
といっても、寿一郎さんから姪孫が十六歳になる前に一度顔を出すようにとお達しがきていたので、瞬一はそれに従って大叔父のお屋敷に足を運ぶことになったのだ。
一人暮らしとは聞いてはいたが、彼一人が住むには、そのお屋敷は広すぎて大きすぎた。
さすが、早川グループの総帥として君臨するだけある住まいだと圧倒してしまった。
まず門扉に入ってから、玄関に辿り着くまでまあまあな距離を歩いた。
お手伝いさんと思われる中年の女性が出迎えてくれたので、完全な一人暮らしではないようで、万一のことがあればという心配は杞憂に終わった。
通された和室も広く立派な庭園も一望できて、奥で待っていた寿一郎さんに声をかけられるまで見入ってしまっていた。
「瞬一くん、こちらにいらっしゃい」
柔和な顔で手招きをする寿一郎の声に気づいて、瞬一は急いで彼が待っている座卓の方に向かった。
大叔父と向き合う形で正座して座り、瞬一は一礼をした。
「こんにちは。寿一郎さん」
「よく来てくれたね。 まあまあ、そう硬くならずリラックスしてくれていいからね 」
「と言われても、やっぱり緊張しますよ」
寿一郎さんは微笑を浮かべたところに、先程のお手伝いさんがお茶とお茶菓子を運んで出ていき、また二人きりになった。
淹れてくれたお茶を頂きそっと湯呑みを置いた時、初めてみる寿一郎さんの真剣な眼差しに、瞬一はこれ以上ないくらい居住まいを正した。
「瞬一くん。これからする話は、すぐには信じられないかもしれないが、よく聞いてほしい」
「わかりました」
「我が一族は呪われている」
「え?……は?……え?」
寿一郎からの唐突すぎる予想外すぎる告白に、瞬一はまず耳を疑い、動揺し、すぐには信じられなかった。
こちらの反応は、すでに向こうには想定内だったみたいで、寿一郎は静かに語りだした。
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