2人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、躊躇うことなく突進してきた。
「勇者にケンカを売ったこと、後悔させてやる!」
勇者の動きは、さすがというべき俊敏さと洗練さだった。
だが、その手に握られた剣が、あまりにも……。
ガギン――。
「剣の手入れしてねえだろ」
「防がれただと!?」
まばらに黒ずんだ剣を盾で防いだ俺は、剣を放して手を固く握りしめた。
そして、目を見開く勇者の薄っぺらい腹に叩き込んだ。
「げふっ」
ズザザザ――。
吹っ飛ぶ勇者。
慌てて治癒魔法をかけるパーティーメンバー。
騒然とする店前の通り。
俺の頭の中では、たった一つの言葉がじわりと大きくなっていった。
やってしまった。
「うわーん」
「大丈夫よ怖くない怖くない」
「死んだの?」
「い、いや、生きていると思う」
泣きじゃくる子供を、なだめようとする母親。
吹っ飛んだ勇者を見て、呆然とする少年と父親。
これは、もう無理だ。挽回のしようがない。
「く、くそ。覚えてろ!」
最初のコメントを投稿しよう!