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点けられたテレビをじっと観た。地元で起こった事件が地元の放送局でしか流れないように、こちらも関東近郊の出来事しか放送されない。
何を待って、何を期待してるんだろう。
誰かに、あたしたちが起こしたことを知ってほしいんだろうか。知られたところで英雄にもなれないし、捕まるのがオチだ。
テレビを観るのに疲れて、消した。時計を見ればまだ夕方の五時。深尾が帰るのは六時だと言っていた。
お金、返さなきゃな。プリペイド携帯と、切符のお金。
その話をちゃんとしていなかったことを思い出す。ここに着いてから、すれ違いに眠ってばかりいた。
返すくらいの残高はある。スマホで確認した。
仕事はずっと有給消化している。あたしはいつまでここに居て良いんだろう。
ぐるぐるとこれからのことを考える。
玄関の扉の鍵が開く音がする。無意識に息を止め、潜めた。
「ただいま……何してるん」
壁に寄り添うあたしを見て、深尾が怪訝な顔をする。
「……壁になる練習」
「忍者かよ」
「生姜焼き作った」
「ありがと、腹減った」
夕飯を用意して、黙々と食べる深尾を見る。
「シヅは食わねーの?」
「うん、見るだけでお腹いっぱい」
「お前、何も食ってなくね?」
「メロンパン、食べてる」
朝開けたメロンパンを半分は食べた。十分すぎるくらいだ。何か言いたげに深尾が口を開こうとしたので、あたしは質問を投げる。
「ミオはいま彼女いないの?」
「……いないけど」
「そっか。まあ、もし居たら、ミオは来ないか」
「行ったよ」
即答された。
あたしは視界がおかしいくらいに潤んだ。
「何があっても行った」
「……あの、卒業式の日、ごめんね」
深尾の箸が止まる。あたしは続けた。
「切符、家に忘れて取りに戻ったの」
「いい」
「そしたら、切符見つかってて、破られて、携帯も、壊されちゃって」
「いいって」
「殴られるとね、意識が飛んで数時間戻らないの。でもそうすると痛いのとか全然感じなくて、そのときもそうしちゃって」
「シヅ」
「行けなくてごめんって、ずっと謝りたかった……」
泣くのは違うと思っていたけれど、やはり泣いていた。涙のメカニズムってどうなってるんだろう。差し出されたティッシュで涙を拭う。
「あはは、親に殴られた話初めて人にしちゃった」
泣きながら笑って言うと、深尾は泣きそうな顔をして箸を置いた。気分を害したかな、と手元を見ているとその手がこちらへ伸びた。無意識に構える。すっと深尾の手が頬を滑り、涙の跡を辿った。
「……死んだから、漸くできた……」
言葉にすると言葉では表せないような大きな感情が押し寄せ、更に涙が流れた。
幸せの多くは紛い物で、永くは続かない。
嘘も真も死んだら同じ。
あたしは浅い眠りの中で、同じ夢を何度も見た。
何度も何度も同じ夢といくつもの最悪な結果。
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