本編

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***  点けられたテレビをじっと観た。地元で起こった事件が地元の放送局でしか流れないように、こちらも関東近郊の出来事しか放送されない。  何を待って、何を期待してるんだろう。  誰かに、あたしたちが起こしたことを知ってほしいんだろうか。知られたところで英雄にもなれないし、捕まるのがオチだ。  テレビを観るのに疲れて、消した。時計を見ればまだ夕方の五時。深尾が帰るのは六時だと言っていた。  お金、返さなきゃな。プリペイド携帯と、切符のお金。  その話をちゃんとしていなかったことを思い出す。ここに着いてから、すれ違いに眠ってばかりいた。  返すくらいの残高はある。スマホで確認した。  仕事はずっと有給消化している。あたしはいつまでここに居て良いんだろう。  ぐるぐるとこれからのことを考える。  玄関の扉の鍵が開く音がする。無意識に息を止め、潜めた。 「ただいま……何してるん」  壁に寄り添うあたしを見て、深尾が怪訝な顔をする。 「……壁になる練習」 「忍者かよ」 「生姜焼き作った」 「ありがと、腹減った」  夕飯を用意して、黙々と食べる深尾を見る。 「シヅは食わねーの?」 「うん、見るだけでお腹いっぱい」 「お前、何も食ってなくね?」 「メロンパン、食べてる」  朝開けたメロンパンを半分は食べた。十分すぎるくらいだ。何か言いたげに深尾が口を開こうとしたので、あたしは質問を投げる。 「ミオはいま彼女いないの?」 「……いないけど」 「そっか。まあ、もし居たら、ミオは来ないか」 「行ったよ」  即答された。  あたしは視界がおかしいくらいに潤んだ。 「何があっても行った」 「……あの、卒業式の日、ごめんね」  深尾の箸が止まる。あたしは続けた。 「切符、家に忘れて取りに戻ったの」 「いい」 「そしたら、切符見つかってて、破られて、携帯も、壊されちゃって」 「いいって」 「殴られるとね、意識が飛んで数時間戻らないの。でもそうすると痛いのとか全然感じなくて、そのときもそうしちゃって」 「シヅ」 「行けなくてごめんって、ずっと謝りたかった……」  泣くのは違うと思っていたけれど、やはり泣いていた。涙のメカニズムってどうなってるんだろう。差し出されたティッシュで涙を拭う。 「あはは、親に殴られた話初めて人にしちゃった」  泣きながら笑って言うと、深尾は泣きそうな顔をして箸を置いた。気分を害したかな、と手元を見ているとその手がこちらへ伸びた。無意識に構える。すっと深尾の手が頬を滑り、涙の跡を辿った。 「……死んだから、漸くできた……」  言葉にすると言葉では表せないような大きな感情が押し寄せ、更に涙が流れた。  幸せの多くは紛い物で、永くは続かない。  嘘も真も死んだら同じ。  あたしは浅い眠りの中で、同じ夢を何度も見た。  何度も何度も同じ夢といくつもの最悪な結果。
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