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「ミオ、もう」
「何で殺した?」
「え?」
「包丁? 何かで首を絞めた? 水に沈めたか?」
「ふ、フライパンで……」
「フライパン?」
冷静に尋ねられ、あたしも冷静になった。
「上から、殴った」
冗談か、という顔をされ、笑おうとして顔が強張った。呆れた表情が見える。
「お前、変わってないな」
深尾はそう言って、ドアノブを勢いよく引いた。一緒に"人間じゃないもの"も飛び出してくる。どしゃっと地面に落ちた全てを見て、深尾はそれが手に持っていた空の酒瓶を持ち上げて玄関の中へ転がした。
深尾がビクビクと動くその腕を掴んで持ち上げ、玄関の中へ引きずっていく。幸い、血の痕はなかった。
あたしはそれを見ることしかできず、玄関の扉が閉まりそうになるのを手で掴んだ。
「シヅ、これ。目の前の駐車場。先行ってて」
上がり框に車の鍵が投げられる。丁度足元に来たので、しゃがんで取った。
「一台しか停まってないからすぐわかる」
「ミオは」
「すぐ行く。靴はちゃんと履いとけ」
そう言われて、漸く自分の足元を見た。靴下のまま、外を歩いたので汚れている。
顔を上げるともう深尾は廊下にはおらず、リビングのの方で物音がした。あたしは静かに玄関から出て、扉を閉める。
靴はちゃんと履いてきた。
深尾が何をするのか想像は出来た。でも止めることも手伝うことも出来ない。足手まといにしかならないだろう。
車に到着して助手席に乗り込む。今何時なんだろう。いつ深尾は戻るんだろう。
数分なのか数時間が経ち、がたんとトランクが開いた音に我に返る。振り向くと深尾が大きなスーツケースを入れていた。
"それ"に何が入ってるかなんて、言われなくても分かった。
運転席の扉を開けた深尾の服が変わっていた。
「やべ、フライパン忘れて来た」
あたしが玄関に置きっぱなしにしていた鞄をこちらに差し出し、深尾はまた扉を閉めて戻っていく。何も持っていくことは無いと思っていたけれど、鞄を持っていけるとは。
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