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自販機で買ったカフェオレが甘く、深尾が眉間に皺を寄せた。それを興味深く史津が見る。
「甘いの、嫌いなの?」
「甘いと思ってなかった」
「ミオがそんな顔してるの珍しい」
ふふ、と史津が笑った。そうして自然に史津が笑っているのも珍しく、深尾は見返していた。
体育館の裏の自販機前は比較的空いており、カップルがやって来ても深尾と史津という謎の組み合わせを目にして引き返していった。また、二人が来ることによって寄せ付けなかった。
「学校の自販機は、炭酸水ないもんねえ。無糖のやつ」
「まあ別に、あれは酒を割る用だから」
「あたしは何も聞こえませんでした」
無関係を貫くその姿勢に何も言わず、深尾は飲み干した空き缶を投げた。
すこん、と音を立てて箱に落ちる。分かりやすく目を輝かせ、史津は拍手した。
「すごい天才。履歴書の特技に書けるよ」
「フリースロー空き缶」
「百発百中ですって」
「実演で外すやつな」
「ミオなら涼しい顔でいける」
同じカフェオレを飲み終えた史津がその空き缶を深尾へ渡した。くるりと手の中でそれを回す。
振りかぶって手を放す前に、隣で怯えるように震えた。それに気付いてコントロールが狂う。空き缶は壁に当たり、そのまま箱へ吸い込むように入った。
「ほらできた」
何故か史津が得意げな顔をしている。深尾はその横顔を見ていたが、少しも気づかずにただ称賛した。
その後、史津は学校へ来なくなった。
「シヅは?」
「欠席じゃて」
史津の席に座っていたクラスメートが答える。
「理由は」
「知らんけど」
「あの子、よう怪我してるじゃん。それじゃない?」
女子が声を潜める。
「なんか親がヤバいらしいよ」
史津の手首の内側に丸い火傷痕があるのは知っていた。
他人がやったのだと思っていた。男子が女子を見る。
「どんな?」
「や、詳しくは知らんけど。あの子と同じ中学の子と仲良いけんちょっと聞いたら、父親と二人みたいで。中学の時も顔腫らして来てた事あったらしい」
「やべーな。よう高校来とるわ」
後半、深尾は黙って教室を出た。
史津のバイトするコンビニへ行くと、品出しする姿があった。そんなことに安堵して、顔を見て凍り付く。
マスクからはみ出た痣に学校で聞いた話が蘇った。
「助けてやるよ」
お前をそんな目に遭わせる全て。
困ったようにして史津は笑おうとした。
「しなくていい」
その言葉に、お前は無力だと言われたようで。
何も返すことが出来なかった。
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