第31話 氷上に隠れる漆黒の者 壱

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第31話 氷上に隠れる漆黒の者 壱

ーーー警視庁の詛呪対策本部にて デスクの上で鬼柳は必死で知恵の輪を解いていた。今日の仕事は朝の会議を終えてからまだない。迅もまだ出勤していない時間だった。 智司はパソコンのキーボードをカタカタと打ち鳴らし、マウスのクリックボタンでポリゴンで出来上がった式神のハシビロコウを動かした。今日もネットの中ではたくさんの事件が起きていた。 「いたちごっこか……」  智司は以前に追いかけていたフィッシング詐欺の犯人の仲間がいたようで同じ手口で詐欺を起こしていた。霊感商法が多かった。ハシビロコウがプログラムに侵入して、画面の向こう側の悪だくみをする犯人に向かって飛んでいく。ホワイトハッカーだ。ただ単にプログラムの回復だけじゃない。パソコンの中に送り込まれた念も除霊している。 「事件起きてるのか。そっちは頻繁だなぁ。俺らの方はたまにしか通報ないからなぁ。迅も来ないし……お、解けた!」  解けた知恵の輪を天高く持ち上げた。大げさだった。フロアはしらけてしまう。  舞子のスマホ画面には、sIrOという可愛い犬の式神イラストが描かれている。舞子は、tiktokやInstagramの犯罪めいた内容のチェックをした。 「詐欺の勧誘動画ってなんで平気で流れるんですかね。運営にひっかからないように動画流れるみたいで……あの手この手ですり抜けるんですね」  独り言のようにぼそぼそと舞子は話す。九十九部長が反応する。 「詐欺は一見わからないんだよね。信じちゃう人が多いから。占いとかも目には見えないものだから騙されるのも多いのよね。真剣に占う人もいるのにね」 「本当、それです。私の信じていた占い師の方いて、その人詐欺師だったって知ってがっかりしました。お金目的だけの方は危ないですね」  舞子はプライベートのことをペラペラと話す。鬼柳はそれを聞いて嬉しくなった。 「舞子ちゃん、どした? だんだん話してくれるようになったね。半年も経てば慣れるよね」 「鬼柳さん、それセクハラです」  九十九部長はぼそっという。 「え? ただ会話しただけなのに?」 「嫌がってますよ。顔をよーく見てください」  九十九部長は、舞子の顔を指さした。鬼柳は、じーっと見つめると、舞子はものすごく嫌な顔をしていた。 「よくないですね。気をつけます……」  鬼柳はとても小さくなって、部屋の隅の方に行ってしまった。舞子と九十九部長はグータッチをする。そこへ、あくびをしながら、迅が部屋の中に入っていた。 「おはようございまーす。あれ、鬼先輩、今日休みっすか?」 「あっちー」  舞子は、部屋の隅にずーんと膝を抱えて、沈んで小さくなってる鬼柳を指さした。 「……ちっさ」 「……うっせぇ」  床をいじいじとして、落ち込んでいる。迅は、じーっと視線を合わせて、鬼柳を見る。つんといたずらをするが、おきあがりこぼしのように戻って来る。  ふいに電話のコールが鳴った。九十九部長がすぐに受話器を取る。 「すぐに向かいます! ……鬼柳さんと土御門! 出番です」  九十九部長は受話器を置いて、指示を出す。スマホに地図を示し、詛呪対策本部のグループラインに送信する。  迅は、ポケットから通知が来たスマホを取り出して、地図を確認し静かにドアを開けて、現場に向かった。鬼柳は小さなサイズのままスマホを出して、ちょこちょことかたつむりのように動いていた。 「仕事……迅より時間がかかりそうね」  九十九部長はボソッと鬼柳の姿を見て察した。すぐに近づいて、耳打ちする。 「帰ってきたら、飲み会するよ」 「それはありがたい!」  鬼柳は大層喜んで、体が風船のように元に戻った。職場の交流会はまだやってないなかったことを思い出した九十九部長は鬼柳が元気が出るだろうなと発言した。    次の事件は、寒いところだと九十九部長に言われて、バックにジャケットをいれて置いた。夏だというのにどういうことだと思った迅だ。
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