第36話 顔が綺麗かどうか自分次第 弐

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第36話 顔が綺麗かどうか自分次第 弐

「お世話さまです。警視庁の詛呪対策本部の鬼柳兵吉です。事件のことについて詳しく教えていだたけませんか」  monasui(モナスイ)化粧品販売員の柿崎美玲の隣の店のkoseidou(コウセイドウ)化粧品販売員の堂島美幸(どうじまみゆき)に話しかけた。捜査一課の坂之下課長が話を聞いていたが、説明するのが面倒だともう一度本人から聞いてくれという話だった。 「私はお客様対応で詳しくはわからないんですけど、既に亡くなった後だったんです。彼女の姿がパッと消えたんです」 「犯人が誰かとは見てないんですか?」 「それが……見てなくて。服だけ残って、消えたかと思ったら、別な場所に遺体があったというので驚きました」 「え? そうなんですか」 「聞いてないんですか? 屋上の高架水槽の中に入っていたそうですよ」  鬼柳はメモを取りながら、こめかみをおさえた。彼女の念が送り込まれたらしい。話を聞いてどの妖怪の仕業かは検討もつかない。 「先輩、この人めっちゃ怪しいです」    迅は、トイレの通路でゆっくりと人とは思えないくらいの遅さで歩いてるのを見て、職務質問したら、大当たり。顔が目も鼻も口もないのっぺらぼうがそこにはいた。妖怪とも思わずに特殊メイクだと勘違いした迅は、平気な顔をして腕をつかんで連れて来る。 「土御門、それ。のっぺらぼうだぞ」 「げ、マジっすか」  鬼柳の言葉に反応した迅は、せっかくつかんでいた腕をはずしてしまう。黒マントを羽織ったのっぺらぼうは一瞬にして尋常じゃないくらいのジャンプをしてみせた。 「あ、ちくしょう!!」 「お前がちゃんとつかんでいないから。すいません。お話ありがとうございました」  鬼柳は堂島にお辞儀をして、走っていく迅を追いかけた。霊感のない堂島の目にはのっぺらぼうは見えていない。何をしているかわからずぽかんとしていた。 「あっちの方向は、屋上じゃないのか?」  階段をどんどんのぼっていくのっぺらぼうに鬼柳は息があがりそうだ。迅は、平気な顔して軽くジャンプしながらのぼっていく。烏兎翔はご機嫌斜めで足をつかませてくれなかった。 「高架水槽で溺れていたってまさか自殺じゃないよな? 本当にあいつが入れたんだろうか」 「霊力で何とかなるって、先輩勉強してないっすね」 「うっせぇーな。でも、あそこのお店から屋上までかなり距離あるぞ」 「瞬間移動でもしたんじゃないっすか?」 「あー。そういうことか?」  2人はああでもないこうでもないと話なら、屋上へ向かう。外は雷が鳴るくらいの大雨が降っていた。のっぺらぼうは屋上のフェンスぎりぎりのところで佇んでいる。 「動きが止まった。今だ!」 「言われなくても……」  びしょぬれになりながら迅はお札を取り出して唱える。 『白虎・雷』  自然の力を活かして、白虎を召喚しながら雷を呼び寄せた。のっぺらぼうは、察知能力があるらしく見事によける。 「何? 身軽だな。雷効かない?!」  雨が強く降り続ける。手のひらをかざし、見えない霊力により、鬼柳と迅は、強い力で体が引っ張られる。近くには高架水槽がある。まさか、亡くなった柿崎美玲と同じような目に遭うのだろうか。 「やめて!!!」  土砂降りの雨の中、女性の声が響いた。2人は必死で札を指にはさみ、術を唱えようとした。地面に魔法陣を描くように炎が湧き出て来た。 「誰だ?!」  のっぺらぼうは術師が増えたと驚いて焦っている。見ている先には、白狐の仮面をつけた可愛い花柄模様の着物を着た女の子だった。その子も右手指2本でお札を持っていた。 『急急如律令!』  雨でぬれながら、術を唱えると、真上から大きな青龍が現れた。  まだ雨は降り続けている。 「何?!」  のっぺらぼうは、おびえながら後退する。鬼柳と迅は、ピアノ線のように縛られた術が一瞬ほどけた。物々しい空間が漂っている。
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