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あれからずっと考えてる。
時島さんの言うたこと。
でも全くもって理解できひん。
養成所でやっとできた相方に聞いてみようと電話をしたら電話番号が変わってた。
そして養成所にも来ない。
先生から、
「お前の相方、ここ辞めたぞ。なんやギャンブルで膨らんだ借金で首回らんようになって逃げたらしい。」
と聞かされ、
「漫才師になるな、言われてるみたいや...」
と思わず呟いてしまった。
そんな俺を不憫に思ったんか、先生が引き合わせてくれたんが今の相方・佐伯だった。
「こいつも昨日解散したばっかや。二人で組め。」
そう言われたけどお互いのこと何もしらんし、佐伯はクールな感じでほんまにお笑いとかやりたいんかな?と疑うほどやった。
「ほなよろしくな。」
無言でペコっとされて、最初の挨拶終わり。
それから2日後、初めてネタ合わせをした。
俺の作ったネタを渡したらそれを持ってトイレに行ってしまった。
何で俺の前で読まへんねん。
と不満げにしてると同期の坂部がやってきて、
「佐伯、トイレで爆笑してて怖かってんけど。」
と言った。
「爆笑してた?」
見たかった、あいつの笑った顔。
それが俺の原動力になるのに。
相方が笑ってるのが一番嬉しい、相方を笑わせるためにやってる、なんて嘘やと思てた。
そんなんコンビ仲ええですよアピールのための嘘やと。
でもほんまやったんやな。
トイレから帰ってきた佐伯はいつも通り。で、逆に
「何ニヤニヤしてんの?気持ち悪。」
と言われてしまった。
佐伯との初舞台はボチボチやった。
めちゃくちゃウケたわけでも滑ったわけでもない。
緊張はしたけど、それ以上に楽しかったし手応えがあった。
佐伯で正解だと確信を得た。
得たけど、ネタを作るのにはやっぱり相方のパーソナリティーは必要で、
「今日から1ヶ月、うちに泊まりに来てくれへんか?」
とお願いした。
佐伯は嫌そうな顔をしたけど、俺の真剣な眼差しに断りきれなかったらしく応じてくれた。
俺の家は養成所から歩いて10分のとこにある。
祖父が残してくれた持ちビルの一室でまあまあ広い。
そこを勝手に自分でリノベーションして住んでる。
「思てたよりちゃんとしてる。」
「そやろ。」
「でも何か腹立つな。」
「え?」
「中途半端にお洒落で腹立つ。養成所二年目の奴が住む部屋ちゃうからな。」
「まぁ、そうか。ごめん。家賃タダやし、エアコンもついてるし、風呂とトイレも別やし、なんなら洗濯機もドラム式でごめん。」
「はぁ?!ドラム式やと!?」
「ねぇちゃんが海外赴任決まって家電はほぼ新品でくれた。」
「海外赴任?」
「うち、じいちゃんがそこそこでかい会社の会長で親父は社長で、」
「金持ちのボンボンが道楽で漫才やってんのか?」
「いや、道楽では、」
「俺なんか家族に縁切られてボロアパートでバイト掛け持ちしながら養成所通ってんのに。」
「お、俺も家族には反対されたわ!」
「反対されても脛はかじってんねやろ。俺とお前は違う。」
何か知らんけど俺は佐伯を怒らせてしまった。
確かに、佐伯の言う通り。
反対はしたものの心配してくれる家族に甘えてる。
でも...
「漫才が好きで、漫才師になりたいんはホンマや。」
「...それはネタ見たら分かる。」
「笑ってくれたんやろ?」
「...まぁな。」
「俺の原動力はお前が笑ってくれることや。だから頑張れる。」
「お、おまえは、」
佐伯は顔を真っ赤に燃やして立ち上がり出ていってしまった。
何か怒らせるようなこと言ったか?
なかなか帰ってこないから外に出ると彼は
「お前が輝けるように俺は隣におる。だから安心してボケろ。」
と言った。
「うん。」
「あと、あんな恥ずかしいこと二度と言うな。」
「へ?...あぁ、何やお前照れてたんか。」
「て、照れてないわボケェ。」
「かわいい奴やな佐伯はん。」
「うっさいボンボンが。」
1ヶ月はあっという間やった。
ただダラダラと酒飲んで、ネタ作ったり、映画見たり、なんてことない時間やったけど佐伯と過ごす時間はわりと好きやった。
だからこいつとならやっていけそうやなと思った。
佐伯の一番ええとこは物怖じしないとこ。
舞台立ってても思う。
俺はめっちゃ緊張しいやし、舞台そででもずっとネタを反復してる。
けど、佐伯はドシッとしてる。
ネタ振り間違えても顔色1つ変えず、なんなら間違えてませんよぐらいの顔つきで続けよる。
だからか最近、少し緊張がほどけてきた。
佐伯ならなんとかしてくれると思えるようになったから。
先生に、
「そろそろコンビ名考えや~。」
と言われたとき佐伯がすかさず
「SPARKLEです。」
と言った。
俺は唖然とした。
「あ、お前に許可取ってなかったな。ええか?」
「...まぁええんちゃう?スパークルで。」
「ほなそれで。」
何でスパークルなのか知ることになるのはずっと先のことになる。
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