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コンビを組んで5年目、初めて漫才コンクールに出た。 狙うは最優秀新人賞。 そのためにバイトをしながらネタ合わせして、先輩にもアドバイスもらったりした。 が、結果は2位。 惜しくも最優秀を逃してしまった。 佐伯は、 「でも俺らが一番おもろかったけどな。」 と捨てゼリフを残し楽屋を去っていった。 なにカッコつけてんねん。 でも相方のその一言で少しだけ吹っ切れた。 まだスパークルは始まったばっかりだ。 最優秀を取り逃したからこそ、もっとおもろい漫才作ってやろうと思えた。 時島さんが悔しがってもう一回舞台に立とうと思えるような。 相変わらず腑抜けた顔して劇場の前をうろうろしてる。 支配人のくせに絶対に漫才を見ない。 笑いをとる気持ちよさを知って、どうしてやめることができたのか。 ずっと知りたかった。 相方の笠松さんは今何をしてるんやろ。 と、ふとテレビを点けるとそこに答え合わせがあった。 笠松さんが牛と一緒に写っていた。 なんで牛? 「あぁ、あいつ北海道の牧場で働いてるんやて。」 「なんで?」 「さぁ?」 「笠松さんと連絡取ってないんですか?」 「とらんよ。なんも言うことないし。」 「時島さんになくても笠松さんにはあるでしょ。」 「まぁ、そらそうやな。」 「ちゃんと聞いてあげないと笠松さんが可哀想です。」 「可哀想。そうやな...確かに。」 「俺、北海道行ってきます。」 「へ?」 「笠松さん連れてきますからちゃんと話してください。」 時島さんは冗談かなんかやと思ってたみたいやけど、俺はマジだった。 笠松さんに会いに北海道に行った。 テレビで見た牧場へ向かう途中、会ったら何て言おうと考えてたけど結局、 「時島さんと話しませんか?」 としか言えなかった。 笠松さんは一瞬困った顔をして、でも 「確かにいつまでもあいつを逃がしとったらあかんね。」 と笑った。 俺は別に二人にまた漫才やってほしいとかそんなんじゃなく、時島さんに前みたいにキラキラしてほしいとそう思ってただけやった。 あとは、二人を引き合わせたらどうなんのか見たい。 単なる好奇心もあったんかも。 笠松さんは思った通り温厚で優しい人やった。 けど、時島さんの顔を見た瞬間、 「なんでお前が迎えに来んねん!あほか!」 と怒鳴りつけた。 その顔は鬼のようで、俺の脳裏に焼きついた。 その後、二人がどんな話をしたかは知らない。 だけど、翌日会った時島さんは少しだけキラキラを取り戻したように見えた。 俺の目の錯覚じゃなければ。 「お前やったらどうする?」 「え?」 「俺が時島さんみたいに理由も言わず解散したいって言うたら。」 佐伯がそんな質問を投げかけてきた。 「...俺やったら、待つかな。」 「そうか。」 「一年くらい待ってみる。」 「割りと長いな。」 「理由を言わへんてことはよっぽどやろ?」 「まぁ、そやな。笠松さんも同じやったんちゃうか?待ってたんやで、時島さんのこと。」 「そーかもな。」 「待つって一番しんどいけどな。そんなしんどい思いしてもエエぐらいやったんやろな。」 「俺もそれぐらいには思ってるよ。相方やもん。」 「やめろ、そんな腐女子が喜びそうなこと言うの。」 「もっと言うたろか?」 「勘弁せぇ。あほか。」 相方っておもろいな。 家族とも恋人とも友達ともちゃう。 相方という定位置。 それでいて揺るぎない。 なんなら夫婦とかよりも固い関係な気もする。 俺からみて時島さんと笠松さんもそんな感じやった。 二人の関係性に憧れてたんかもしれんな。
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