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小学生の時の俺の唯一の楽しみは土曜の昼からやってた漫才番組やった。 大体トリは大師匠で、ボケとツッコミの間合いが絶妙すぎて爆笑するというよりは漫才って凄い!って思いながら見てた。 やけど、まさか自分が漫才師になるとは、その時は夢にも思ってなかった。 自分みたいなつまらん人間が漫才師なんて恐れ多い、そう思てたから。 高校の時の文化祭でクラスで出し物をすることになって、何故か仲良かった松木が漫才をする羽目に。 そして俺は相方に選ばれた。 理由は俺だけ帰宅部で暇やったから。 「せっかくやからマジでおもろいもんやって皆をあっと言わせようぜ。」 意気込みだけは十分な松木。 そう、意気込みだけ。 ネタは全然書かへんし、二人で打合せしてても何もアイデアを出さへん。 仕方なく俺がペンをとり、一人で漫才の設定を書き出した。 親父も漫才が好きで、よう一緒に劇場に連れてってもらったから見るだけは見てる。 だから知識だけはある。 こんな感じやろな、でとりあえず一本作って松木に読ませた。 松木は最初は神妙な顔をしてたが読み進めるうちに普通に笑ってた。 「え?めっちゃおもろいやん。お前天才か?」 それが俺が初めて得た幸福感やった。 何とも言えない嬉しいという言葉だけでは表せない感情。 それを味わってしまったがために俺は漫才師になってしまった。 文化祭本番、客にはぼちぼちウケた程度でクラスの皆をあっと言わせることはできんかった。 初めての漫才は緊張であんまり覚えてないし、客の笑い声もほとんど聞こえなかった。 必死でやりすぎてだいぶテンポが早かったと思う。 たった2分が永遠に感じた。 進路を決めるってなって、親には反対されまくったけど俺は迷わず漫才師になる道を選んだ。 相方を探すために養成所に入って、憧れだった時島さんに会った。 時島さんの漫才は今まで見た漫才とは全然違う、まるで別物やった。 コンビ組んで一年で売れてテレビにもバンバン出て、チケットが手に入らんほど劇場を沸かしてた。 このまま東京に出ていくんやろなって思ってた時、急に解散した。 そして時島さんは芸人も辞めた。 「劇場の支配人やってます、時島です。」 まだ20代やのに時島さんはずいぶん大人に見えた。 大人というか、おっさん。 あの頃の輝いてた時島さんはもういなかった。 たまらず養成所の先生に、 「何で時島さん支配人なんかやってるんですか?」 と聞いた。 「あいつをもう一回芸人に戻したいから無理くり支配人にしたんや。何としてもこの世界に繋ぎ止めとうてな。」 「俺も時島さんの漫才また見たいです。」 「...みんなそう思てるよ。」 そう言うた先生の何とも言えない顔が全てを物語っていた。 俺は何かしたい、そう思って勇気を出して時島さんに 「ご飯つれてってください。」 とお願いした。 でも、 「君だけ特別扱いできひんから。」 と断られた。 でもめげずに35回お願いしたら仕方なくという感じでファミレスに連れていってくれた。 時島さんは見かけと違い酒もタバコもやらない。 「昔はめっちゃ飲んだし吸ってたけど、支配人になってから止めた。」 「何で解散したんですか?」 「君えらい単刀直入に聞くな。」 「こういうのはストレートに聞かないと。」 「まぁ、色々や。」 「どっちから言うたんですか?」 「どっちってことはない。」 「え?」 「目ぇ覚めたら漫才師じゃなくなってた。それだけや。」
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