正反対の二人

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正反対の二人

「ごめん。この席いい?」  片田舎にあるクレセント・バレー大学の、共通授業の時間。他の学科も入り乱れるその講堂は、授業開始時間ギリギリにやって来たロバートが席を探すのは至難の業だ。  やっと見つけた空席の隣は大人しそうな女の子。  彼女は頷くと広げていたノートを自分の方に寄せた。 「この講義、もう少し大きな講堂でやればいいのに。俺はロバート。心理学科の二年」  ロバートが自己紹介すると、彼女は「ファーンよ。文学科」と小さな声で答えた。服装は地味だけど、眼鏡の向こうから一瞬だけロバートを見た仕草がちょっと可愛く見えた。  ナンパ、というほどではないが。なんとなく知り合いになるチャンスが欲しかった彼は、持ち前のコミュ力を発揮した。 「ねえ、ファーンていつも早めに来る? 俺朝が苦手でさ。なんでこの講義だけ八時開始なんだよ。で、ほら、遅いと席はなくなるしこの辺の見えやすいとこが良くてさ。良かったら俺の席も来週から取っといてくれない?」  初対面にしては図々しいお願いだが、彼女は「いいよ」と小さな声で答えた。シャイなのかもしれないが、陽気なロバートの無茶振りにも一発OKしてくれる辺り、非社交的というわけではなさそうだった。  彼女とはそれ以外の講義で会うことはなかったが、彼は日も落ちた帰り道、偶然にも行きつけのカフェで彼女と再会する。  彼はカフェ前に駐車すると、いつものようにカフェラテのラージを注文するためにレジに向かう。店員は今日の一時限目に出会ったあのシャイ・ガールだった。 「あれ? ファーンてここで働いてたっけ? 眼鏡がないから気づかなかったよ」  店のポロシャツを着る彼女は、講義の時には後ろに三つ編みをしていたのに、今は高い位置でポニーテールにしている。少しクセのついたブロンドが奔放に揺れていた。 「私はアレックスよ。ファーンは姉。あなたが出会ったのはファーンじゃない?」 「もしかして双子?」 「そう。地味な姉に派手な私。何飲む? カフェオレ、ラージでいいかしら?」 「もちろん」  清楚な姉に、魅惑的な妹。どちらも悪くない。別にナンパな意味はないが、彼女なら連絡先を教えてくれそうだし、双子なら姉の方とも連絡が付けられそうだ。 「ねえ、よかったられんら……」 「おーいセルビー!」 「はーい! ごめん、店長が呼んでるわ。また来てね、えーと……」 「ロバートだ」 「ボブ、待ってるわ」  姉と違い彼女は距離を一気に詰めるタイプらしかった。  気分は上々。店内に空いた席はなかったけど、それくらいどうということはない。  彼はほんのり浮ついた気分になるとカフェを出た。  ワイパーに駐禁切符が挟まれていたくらい、どうということは……。 「クソッ」  流石にそれはスルー出来ないが、講義とカフェ。どちらも今までよりずっと楽しみになったのは言うまでもない。
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