ホテルマエナでフカフカの眠りを!

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真っ青な空と海、白い浜辺に打ち寄せる白い波。 浜辺でデッキチェアーに寝そべるエーゼ夫人は、若い頃の姿だった。 黒地に白の水玉のビキニ姿で、サイドテーブルにはトロピカルジュース。 これは最初の夫との新婚旅行での海辺だ。 「あらいやだ、どうしてこんな夢を?」 これを極上だとは言い難い、なぜなら......。 「エーゼ、カニだよカニ!」 下腹のぽってりとした40代の夫が、海パン姿で海から出てきた。 片手で大きなカニを掴んでいて、長い足が上下にうごめいている。 「ほーら、カニ!」 「きゃあぁっ!」 ふざけた夫が、エーゼ夫人の顔をめがけてカニを押し付けた。 はずみでデッキチェアーから滑り落ち転倒してしまう。 そこで腰を強く打って起き上がれなくなり、救急車を呼ぶほどの 騒ぎになってしまった。 それからエーゼ夫人は入院して、しばらくはマトモに動けなかった。 退院してからもゆっくりとしか移動できなかった。 怒ったエーゼ夫人は離婚を言い渡した。 カニ、たかがカニで腰を痛めるなんて酷すぎる! 冗談で済まされることじゃない。 もしかしたら腰を悪くして一生、動けなくなったかもしれない。 夫がどんなに謝っても、無理だった。 離婚に応じないなら弁護士を雇うとまで言った。 それでようやく夫は離婚に応じた。 「なに?どうして私は人生で最も最悪な夢をみてるの?」 相手は働いていた職場の社長で玉の輿だった。 派手な結婚式までやったというのに。 カニ、カニごときで......。 「エーゼ、一生、幸せにするよ」 「え?」 気づけば港の見渡せる夜のレストランで告白されている。 遊覧船の明かりに照らされて指輪を差し出す年下の男性は、エーゼが 新しく働き始めた職場の同僚だった。 こうして結婚した。 ところが三ヶ月目で浮気をされた。 新人社員だったエーゼ夫人は知らなかったのだ。 彼が恋人をコロコロと変えるタイプだということに。 結婚は気の迷いだったことに。
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