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12月24日 降誕祭前夜祭
オーストリア=ハンガリー帝国/フォアアールベルク州
月の光すらも刺さぬ暗澹とした夜。
闇を纏った森に雪が、しんしんと降り積もっていく。
吐き出された冷たい吐息とともに、白い絨毯の上にアッシュブロンドの髪が広がる。
アメジストのような瞳は、夜空の先の宇宙を閉じ込めたような輝きを放つ。
雪と風が少女の身体から熱を奪い去っていく。
視界がどんどんと歪んで行く。
ザワザワと、木の葉が揺れる音だけが少女の耳を連続的に打つ。
波が浜辺を打っては、引き返すように。
澄んだ空気の中に僅かに湿り気を含んだ樹皮や落ち葉特有の香りが混ざる。
感覚が少しずつ失われていき、少女の身体と心はどんどんと自然と一体化していく。
近付いてくるのは安らかで甘美な死の気配。
恍惚と頬を朱に染めて、少女は瞳を閉じた。
「……お嬢様、クララお嬢様!!」
「カール……?」
「カール?じゃないですよ、こんなところで寝て死ぬつもりですか」
クララが顔を上げた先には赤茶色の髪を持つ筋肉質な青年が立っていた。
門番のカールだ。
「アウグスト様や奥様に心配をかけることは、あまりしないでもらえますかね。ほら、帰りますよ」
「えぇ……」
ギシギシと音を立てて、雪に靴を埋めながら黒い森を深く、深く奥へと進んで行けば歴史を感じさせる灰色の邸が見える。
「さぁ、今日は降誕祭前夜です。早く、お風呂で温まって美味しいご飯を食べるとしましょう」
「そうね」
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