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12月25日 降誕祭
✝︎
降誕祭当日、クララは弟ヨハンとともに雪遊びに興じていた。
「姉様の雪玉、全然大きなってないじゃん! これじゃ僕の楽勝だね」
「ヨハンは、雪だるま作りの才能があるのね」
「えへへ、そうかなぁ」
小さい頃から自分に辛く当たる母は苦手だ。
父は優しいが、自分と話す時はいつも母の視線を気にしているところがあった。
裏表無く自分を慕ってくれるヨハンの純粋さには救われている。
でも母が、自分から弟を引き剥がしたがっていることも知っている。
もう少し彼が大人になって、人の心の機微がわかるようになれば今の関係は続けられないだろう。
クララの雪玉を転がす手は、そう考えてしまうとどうしても進みが悪くなる。
「わぁ、姉様。見て、姉様! すごく綺麗な人達だよ!!」
ヨハンの声に振り返れば、二人の女性が歩いてくるのが見えた。
年代的にはおそらくは親子だろうか。
姉妹というには、年齢差があるように感じられる。
彼女らは共に、稀有な血筋の者特有の空気を纏っていた。
使用人と主ということはないだろう。
二人は厚手の黒いコートに身を包んでいる。
ペリスールと呼ばれるフランス革命後に流行した貴族女性が身につけるコートだ。
頭には共にボンネットを被っている。
年長の女性は、頭の両側から後ろへと赤銅色の髪を丁寧に弧を描いて編み込まれたアップスタイル。
そして少女のボンネットからはクララのものと同様、アッシュブロンドの髪が見えた。
下ろされた少女の髪は強風に優美に靡く。
年長の女性は、翡翠色の瞳でクララ達の姿を確認すると柔らかな微笑みを浮かべた。
こちらの警戒心を溶かす暖かな笑みだ。
クララも微笑みを返すと視線を若い少女の方へと移した。
「――っ!?」
クララの背中をチクリと刺すような冷たい感覚が駆け抜けた。
色素を排した冷たい印象を与える肌。
そして灰のような不純物を含んだ金色の髪、吸い込まれるほど神秘的な紫色の瞳。
その特徴は、まさに自分そのものだった。
アッシュブロンドの髪も紫の瞳も、どちらも嫌いだった。
自分の容姿が違えば、きっと母だって弟のように自分を愛してくれたはずだから……。
それなのに目の前の少女の美しさは、クララの意識を、いとも簡単に奪い去ってしまった。
だが、その美しさは濃密な〝死〟の気配と隣り合わせだった。
呼吸は荒々しく、理知的な瞳の光は翳り、足運びもおぼつかない。
華奢は身体は今にも折れてしまいそうなのに、その立ち姿はあまりにも儚い。
年長の女性は気遣わしげに連れの少女を一瞥すると、優美にお辞儀をしてみせた。
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