◇村上一颯◇

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売却の引き渡し書類の作業が全て終わり、わたしはホテルの部屋に戻った。 まだ寝ているかなーと、そーっと扉を開けたら、健司はベッドに腰掛け、入り口に背を向けて電話をしていた。英語で喋っている。 これはロスの方の会社関係の人だな。 物音に気づいた健司が、慌てたようにスマホの向こうの相手に別れの挨拶をし、こっちを振り返った。 「おかえり、一颯。寝かせてくれたんだ? めっちゃスッキリしたよ」 「よかった。売却関係は全部終わったよ。誰? 会社でしょ? この後仕事?」  内心がっかりしながらも、どうにか顔に出さずに聞けた気がする。 「いや。これからプチ新婚旅行だな! 一颯、前、Dランド行きたいって言ってたよな? つき合い始めてからすぐロスに行っちゃったから、まともなデートもしてないもんな」 「それは嬉しいけど……。健司、その日にDランドなんて無理だよ。とにかく並べばよかった昔と違うんだよ。電子チケットで、何日も前から空き状況を確認しないと今はいけないらしいよ」 「そこは平気! まあまかしとけよ。行こうぜ? あ、ちょっとめかしこんで行かないとな。いや俺か。ジャケット持ってきてねえわ。どっかで調達してから行こう」 「え?」
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