◇村上一颯◇

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「もう、一颯はほんとかわいいよな」  健司、慣れているんだよ……。こういうセリフがサラッと出てくるあたり、この男は今よりうんと若いうちから女の子を喜ばせるような扱いを、実技で学んできている。 でも、今はわたしだけの健司だ。  もう午後も二時をまわってしまっていたけれど、晩夏の夕暮れにはまだまだ時間がある。 二人でいると楽しくて、アトラクションの待ち時間も全然苦にならないだろうと思っていた。なのにわたし達には待ち時間が存在しないことが判明した。 プライベートVIPツアーとかいう、優先的にアトラクションに乗れたり、特別な観覧場所でショーが見られたりするパスをわたし達は使えている。 キャストさんがガイドとしてつく。 でもキャストさんにどういう周り方をしたいか方向性を聞かれた時、おもいきってできるだけ二人でいたいんです、と伝えてみた。 そうしたらその意思を汲んでもらえ、アトラクションを利用するとか食べ物や飲み物の調達とか、必要なときだけ案内してもらうことになったのだ。 課金で優先度が上がるプレミアムアクセスを使っている人は多くても、アトラクションによってはその人達とも違うまるで人気のない入り口に案内される。 もちろん待ち時間はどこに行っても、何を飲んでも食べても完璧ゼロなのだ。 あまりの特別待遇に申し訳なくなる。
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