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黒服をスマートに着こなしたキャストさんの後をついていきながら、健司にすごいね、と目配せをする。健司が、そうだな、とアイコンタクトを返してくる。まったく場慣れしていないわたしたちだ。
でもDランドの中にあるだけあって、わたし達の服装はいくつかある他のテーブルのお客さんから浮いているわけでもない。
フランス料理のフルコースのようだ。
最近仕事上の接待で必要にかられ、少しは勉強したらしいけど、それほど分かってはいないだろうに、もっともらしい顔をしてワインのテイスティングをする健司がかわいくて笑みが漏れる。
大皿の真ん中に絵を描くように盛り付けられたフィレ肉や、帆立のカルパッチョを、わたしたちは楽しく美味しくいただいた。
最後のデザートのプレートには、メッセージが入っていた。
Enjoy love holiday Kenji, Ibuki, by Andrew.
「アンドリュー?」
わたしはホテルに戻ったとき、健司が英語で誰かと会話していたのを思い出した。仕事の話だと勝手に納得していたけど、この打ち合わせだったのかな。
「バレたか。そう、アンドリューに、一颯をDランドに連れていきたい、って相談したら、『まかしとけ、本物のVIPを体験してこいよ。お前らすぐこうなる』って言われた。あの人、世界中のDランドマニアでさ。頼んでないことまで全部根回ししてくれるらしい。報酬利率、上げるか?」
「感謝だね」
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