◇村上一颯◇

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誰に不審に思われることなく、エレベーターでエントランスフロアに出る。キャストさんは外へのメイン扉の先を示した。 「あちらに止まっているリムジンでございます」 「え! どういうこと?」 「移動。宿泊は別の場所みたいだぞ」  ここのホテルに泊まるわけじゃないんだ。 わたし達が使ったプライベートVIPツアーは、直営ホテルのスイートルームに宿泊した人だけが購入できる特典なのだと、わたしはパウダールームに入った時にネットで調べてしまっていた。 だからてっきり今日はDランド直営ホテルに泊まるのだと思っていた。それなのにわたし達はあのパスを宿泊もせずに使えた、ということになる。 アンドリューはどこまで裏技を発揮できる富豪なんだ……。  健司と二人、人生で初めてリムジンに乗り込んだ。映画で見るほど長いリムジンじゃなかったけれど、中は広い。 運転席の後ろに革張りのソファが窓を背にして長くはべっている。ソファの前は、これまた窓側の壁に沿った作り付けのテーブルで、シャンパンが用意されている。 「アンドリュー……忙しいのに」 「いや、秘書に頼んでるだろ、さすがに」 「そうだよね」
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