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金がかかってもいいからちゃんとタクシーを使ってほしいけど、自分のことに関しては頑張りすぎるきらいのある一颯だ。それは難しい気がする。
俺はベッドから抜け出して、一颯が市販の鎮痛剤を入れている引き出しを確認しに行った。確認したところでわかるわけもない。
何箱も常備してあるそれを、彼女が持って行ったかどうかなんて俺に判断できる道理もないのだ。
「一颯……」
駅ホームのベンチで腹を押さえて頬をひきつらせ、途方に暮れる一颯が脳内に浮かび、居ても立ってもいられない気持ちになる。
俺は引き出しの中から鎮痛剤を一箱取り出した。
日本に行こう。
そうだ、役員連中にそろそろ日本に帰って幹部会議で成果を細かく報告しろと、うながされていたんだった。
もうこの際、それを言い訳に使おう。
人と会わないのなら仕事はリモートにして飛行機の中ででもこなしまくり、週明けの幹部会議に出てからこっちに戻ればいいだろう。
ロスの支社に役員は俺しかいないから、他の役員連中がうるさくて、とでも愚痴っておけば社員に対してはそれが釈明になる。
思いついてしまうと、次にはクローゼットの引き出しを漁って、パスポートの確認をしていた。とにかく一颯が心配だった。
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