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「健司! どうしたのよ?」
出張によく使われるビジネスホテルのロビーで、俺に駆け寄る一颯の両肩を支える。
「思い出しちゃったら心配で……」
「思い出した? 何を?」
「いや、一颯さ、今日からか明日からか、生理じゃない?」
「え! ちょっとこんなとこで、いきなり何言い出すのよ」
一颯は周りに人がいないか確認するためか、あたりを伺うような仕草をした。
「もうきた?」
俺は声をひそめた。
「いや、まだ。今回、たぶん遅れるんだよね」
一颯も俺に近づいてきて声をひそめる。
「あっ、そうなんだ。よかったー。あ、薬、持ってきた。持ってったとは思うけど、なんならすぐ買えるのはわかってるけど、いつもの様子見てるから心配で。いろいろ手伝いもしようと」
俺は鎮痛剤を一颯に手渡した。
「ありがとう。仕事、すごく忙しかったでしょうに」
一颯は感慨深げに手の中の鎮痛剤に視線を落とし、それをしげしげと見つめた。
「仕事は飛行機の中でだいぶこなしたから」
「部屋行こう。健司、寝てなくない?」
「実家までのタクシーの中で寝た。一颯の予定は? 家の売却は? この後の予定あるなら、俺、運転しようと思って実家から車取ってきたから」
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