◇村上一颯◇

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◇村上一颯◇

「一颯、そういうこと素直に口に出すから俺の方が恥ずいし……嬉しい」  なんてことを伝えてくる健司だけど、健司の方がよっぽど、こっちが恥ずかしくなるほどの愛情表現をしてくれるのだ。 特に、そのう……ベッドの中とかさ。  それに生理が重いからって心配してロスから東京まで来てくれる夫って、どう考えても最高すぎるでしょ。 しかもたぶん、今回はズレる。この間、珍しく二日もズレたから、あと二日、もしかしたら三日は始まらない可能性が高い。 生理の前になると、軽い頭痛がしてくるし腹部が重くなるけど、まだそれもない。 「健司、いつ帰るの?」 部屋についてからわたしに勧められるまま、早々にベッドに入って眠る体制をとっている健司に声をかける。 「月曜の幹部会議に出てから……帰る。……家の売却、間に合うよう……起こして」  よっぽど眠かったのか、電源を落とすように寝入ってしまった。飛行機の中で寝ずに仕事をしてきたんだろうな、といつも持ち歩いているパソコンの入った通勤用リュックを眺めながら思った。  月曜日までいてくれるのか。だったら、十時の実家引き渡しが終わってしまえば全くのフリーになる。 いきなりできた、仕事とまったく無縁の日本での二日間。 いや、健司の仕事はリモートであるのかもしれなくて、ずっとパソコンとお友達の可能性もなきにしもあらずだけど、少なくともわたしの方はロスに帰るまでフリーだ。
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