【プロット】小さな光を集めて

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都会の喧騒から逃れ、古都鎌倉に移り住んだ写真家、水島陽菜。 彼女は、古い一軒家を改装したアトリエ兼自宅で、静かな日々を送っていた。 陽菜は、光を捉えようとしていた。 対象は風景であったり、人物であったり、時には日常の些細な一瞬であったりする。  そして、陽菜にとっては習慣になっていた。  その習慣は、「記憶の光」を集めることに昇華されていく。  古いカメラを片手に、鎌倉の街を歩き回る。  そして、心惹かれる光を見つけると、シャッターを切る。  それは、古寺の静謐な光、路地裏に差し込む木漏れ日、夕焼けに染まる海、そして、人々の笑顔だった。  彼女は、これらの写真を「記憶の光」と呼び、大切に保管していた。  ある日陽菜は、一枚の不思議な写真を見つける。  それは彼女が撮った覚えのない写真だった。  写真には、見覚えのない女性が、優しい笑みを浮かべてこちらを見つめていた。  写真の女性は、どこか懐かしさを感じさせる雰囲気を持っていた。  陽菜は、この女性が誰なのか、そして、なぜこの写真が自分のカメラに入っているのか、不思議に思った。  数日後陽菜は、カフェで一人の女性客と出会う。  彼女は、あの写真に写っていた女性にそっくりだった。  陽菜は、勇気を出して女性に話しかける。 「あの、もしかして、この写真に写っているのは…」  女性は、写真を見て、驚いたような顔をした。 「これは、私の祖母です。亡くなった祖母が、大切にしていた写真です」  女性は、涙を浮かべながら、陽菜に話してくれた。  彼女の祖母は生前、鎌倉に住んでおり、写真家を目指していたという。  陽菜と女性は、写真をきっかけに、心を通わせていく。  二人は、お互いの過去や、今の気持ち、そして、未来への希望を語り合う。  女性との出会いが、ただの偶然ではないように感じた。  それは、まるで、彼女が集めた「記憶の光」が、二人を結びつけたかのようだった。  やがて、陽菜は、女性から一枚の写真を受け取る。  それは、女性の祖母が最後に撮った写真だった。  写真には、美しい夕焼け空が広がっていた。  陽菜は、その写真を手に取り、鎌倉の海辺へと向かう。  そして、夕焼け空に向かって、シャッターを切る。  その瞬間、彼女は、不思議な感覚に包まれた。  それは、まるで、女性の祖母が、彼女を通して、この美しい瞬間を捉えようとしているかのようだった。  陽菜は、これからも「記憶の光」を集め続けるだろう。  それは、彼女にとって、大切な思い出であり、そして、未来への希望でもあるからだ。  そして、いつかまた、誰かの想いが詰まった「記憶の光」が、誰かの心を癒し、新たな光を灯すかもしれない。
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