星の山

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 その山の頂上では覆いかぶさるようにヒトデがいた。  と、いってもそんな巨大なヒトデがいるわけがなく、星形の人工物が山の頂上に建造されたのだった。  端末のゲームをしているときや、インターネットを利用したり、スマホでメールを打っているときなど、だれも電力など気にとめない。その契約してる通信会社のメインコンピュータがクラウドサービスシステムの情報やパソコン、スマホなど十億単位での処理をしており、そのためには一つの都市くらいのサイズの施設が必要になり、その消費する電力はヨーロッパのポーランドやジョージアと同じだ。  つまり、その企業そのものが一つの国のようなものだ。  考えてみてほしい、クラウドサービスプラットフォームからインターネット経由でコンピューティング、データベース、ストレージ、アプリケーションなどのサービスを提供するのだ。それが世界規模だと処理能力は桁違い。当然、膨大な熱を放出する。  もちろん、環境は寒ければ寒いほどコンピュータには都合がいいが、過酷な環境で肝心の電力の供給に支障が出るようでは話にならない。  なら答えは簡単、各水力発電所が近く、また太陽電機、風力電気での供給が見込める山岳地帯に施設を建築すればいい。  しかし、それには機材の運搬などにコストがかかりすぎる。どの企業も二の足を踏んだが、この課題に挑んで完成させた企業があった。  ロバート・アイアンマスクが率いる世界的なIT企業、シャイニングスターだ。アイアンマスクは社長は環境にやさしいクラウドサービスをマスコミに発表し、標高四千メートルの影星岳を購入して、その頂上に巨大な情報処理施設を建造したのだった。  が、そんな生易しい熱量でないのは玄人ならすぐわかる。  経済日報の編集長は「環境にやさしいどころか雪を溶かして、天然水を蒸発させる、とんでもない環境破壊のモンスターだよ、この事実を世間に公表しないといかん!」  と、いうわけで山岳カメラマンの俺が雇われたわけだ。  目標の山は管理しているシャイニングスターの敷地になっているから、完全に無許可での取材になる。麓からこっそり登山し、山中では朝になれば迷彩のシュラフで身を隠し、日が落ちてから行動開始だ。  計画では二泊三日の行程だ。  なんとしても三日目の夜の間に取材を終えて、夜明け前には麓の村に停めている自動車でとんずらだ。  俺はピッケルを片手に軽装で山に登り、なんとか予定の時間までに山頂に到達した。  で、とんでもないものを撮影したんだ。  編集長の言う通り、もう十二月だと言うのに施設から放出された熱で頂上の地面はカラカラ、貴重な高山植物は茶色く枯れている。  「こりゃ、ひでえ」  俺はシャッターを押し続けた。  連中は防犯カメラを備えていたが、そんなの死角で撮影すれば怖くない。  「さて、そろそろ帰るか」  そう思ってたら、空から平べったい銀の飛行物体が近づいてきた。  施設には物資を運ぶ用のヘリポートがあるんだが、なんと銀色の円盤が着陸したじゃないか。  当然、シャッターを押したさ。  宇宙服を着た妙な連中が中に入っていく、決定的な瞬間を撮影しちまったんだよ。  そこでピンと来たね。アイアンマスクの奴は、得体のしれない連中に地球の情報を売っていたんじゃないかって……。  つまり、ここは情報収集のための前線基地というわけさ。  「と、なったら、こんな場所に長居は無用だぜ」   そうつぶやいて、ピッケルをつかんだ時だった。思いがけず、真後ろに銀色の服を着た男が銃みたいなもんを構えて脅してきた。  「来い! 不法侵入者め! 逆らうと命はないぞ!」  なんとも、ド派手な警備員もいたもんだ。  俺はビビりながら、両手をあげて、「助けてくれ」と、懇願したがそいつは聞く耳なんか持たなかった。  「さあ、歩け!」  その隙に俺はカメラのフラッシュをたいた。  目くらましに使ってやったのさ、そしてこいつともみ合って、アッパーカットで気絶させてやった。  こう見えても、従軍カメラマンの経験もある猛者さ。  こうして俺は逃げた。  さっきの奴が帰らなければ、どうせ仲間が気づいて追ってくるに違いない。  そう思って、リュックに入れていたパッドにカメラのメモリーを差し込んで、編集長あてに画像を送った。  これで仕事は終わった。たとえ俺が殺されても、この画像は全世界が知ることになるだろう。  そう、本来なら、そうなるはずだった。  だが俺は致命的なミスをしたのに気がついた。そうなんだ、ネットを使うということは、この施設に画像を渡すのも同然ではなかったか?  「しまったやつら、ネットで情報を集めてるんだ!」  慌てて、メモリーの画像を確かめたが、すべてインデックスが潰されて画像が開けない状態にされている。  万事休すだ。  連中は俺を脅威と見なさなくなったのか、麓まで追うようなことはなかったが、夜明けになって自動車に戻ると、ボンネットに《忘れろ》とメッセージが黒いペンキで書かれていた。               了    
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