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──カラン、コロン。
ちょうど全てのアイシングクッキーを並べ終わると、扉の鐘が鳴る音がした。そろそろ彼が来る頃だと思っていた私は、パッと扉の方向を見る。
「おはようございます、ルドルフ様」
「おはよう、ロレッタ」
ルドルフ様に優しく挨拶されて、私も魔女さんたちに褒めてもらえる特大の笑顔でにっこり笑う。
ルドルフ様は、Sランク冒険者──ブラウンの髪に、蜂蜜みたいな金色の瞳。とても背が高くて、筋肉で厚く盛り上がった体躯で、大きな剣を背負っている。
「ロレッタ、いつものを貰えるかな?」
「はい!」
棚に並んでいる魔法薬の小瓶を取り出して、ルドルフ様の待っているカウンターに並べていく。魔法剣士のルドルフ様は魔法を剣に纏わせて戦うので、体力と魔力を回復させる魔法薬をいつも購入する。
売り子になったばかりの頃、ガラの悪い冒険者に絡まれて困っていたときに助けてくれたルドルフ様──それから来店されるたびに、私を気にかけてくださって少しの世間話をしていく。
街で会えば挨拶をしてくださるし、重たい荷物を持っていると手伝ってくれる。気づいたら強くて優しいルドルフ様に恋をしていた。
でも、ただの売り子の私とSランク冒険者のルドルフ様なんて釣り合うわけないので、この気持ちを伝えるつもりもない。
「ロレッタ、ウサギとクマのクッキーは三袋、残りの種類も一袋ずつ貰えるかな?」
「あ、あの、ルドルフ様……?」
「どうした?」
カウンターの下にあるテーブルから白色の缶を取って、甘いものが大好きなルドルフ様に差し出した。中身は私が作った全種類のクッキーがぎっしり詰まっている。
「あの、これ、よかったらどうぞ」
「開けてみてもいいのかな?」
「はっ、はい!」
おまじないクッキーは、女の子の冒険者に人気があるけれど、袋詰めのクッキーは鞄の中で割れてしまったり、湿気てしまう。そこで魔女のみなさんと相談して、クッキー缶を作ってみたのだ。
「へえ、風の魔石を入れて湿気ないようにしてるんだな。缶に入れておけば割れないね──それから、ロレッタお手製の説明書が癒されていいと思うよ」
蓋の裏の魔石をひと目見て、すぐに効果がわかるなんてやっぱりルドルフ様はすごい。でも、私が書いたクッキーの絵とおまじないの内容の説明書をじっくり読まれて、頬にじわじわ熱が集まる。
「っ、そ、そんなにじっくり読まないでください〜〜!」
「じゃあ野営のときの楽しみにしておくよ。全部でいくらかな?」
「あっ、クッキー缶は試作品なのでお代はいらないです。感想を教えてもらえたら嬉しいですけど」
「なんだ、俺のために作ってくれたのかと思った」
「ル、ルドルフ様は食いしん坊なので! そ、そう、だから、試してもらおうと思ったんです!」
「そうなんだ、残念」
ルドルフ様が蜂蜜色の瞳を細めて、くすくすと笑った。きっとたいした意味なんてないのに、残念と言われてどぎまぎしてしまう。
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