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「ロレッタありがとう。なにかお礼をしないとね」 「ええ!? そんなの悪いです」 「本当にいいの? 今回の討伐任務は、『バニーラエッセーン』なんだけどな」  ルドルフ様が意地悪そうに微笑む。いつも紳士なふるまいなのに、ちょっと意地悪なところもキュンとしてしまう。 「うう、ルドルフ様ってたまに意地悪ですよね! バニーラエッセーンのバニラビーンズをほんの少し買い取らせてください」  バニーラエッセーンは、ラン科バニラ属の動く魔物植物の一種で、魔力の強い森の奥地にしか生息していない。普段は大人しい植物なのだが、縄張り争いに敗れたバニーラエッセーンが街に降りてきてしまう。  バニーラエッセーンのさやの中に入っている種は、バニラビーンズといい、お菓子作りにぴったりな甘い香りがする。なかなか手に入らないので、譲ってほしくて両手を組んでお願いした。 「ロレッタならあげてもいいのに」 「そ、それはダメです! ルドルフ様が一生懸命討伐したものをいただくなんて絶対ダメです!」 「……ロレッタは手強いね」  最後のルドルフ様の言葉が聞き取れなくて、首をこてりと傾ける。それを見たルドルフ様がなんでもないというように、ゆるりと首を横に振った。 「じゃあ、こうしよう。バニラビーンズをロレッタにあげる代わりに、ロレッタの新作を最初に食べさせてほしいかな」 「えっ」 「もしかして迷惑だった?」  私にばかり魅力的な提案にびっくりして声をあげたら、ルドルフ様が困ったように眉をよせる。あわててぶんぶん首を横に振る。 「迷惑なんて、とんでもないです! ほ、本当にいいんですか……?」 「うん、もちろん」  申し訳なくておずおず聞けば、嬉しそうににこりと笑ったルドルフ様に毒気を抜かれてしまった。ルドルフ様って想像以上の甘党なのかもしれない。 「ルドルフ様が戻ってくるまでに新作を仕上げておきますね!」 「やっぱりロレッタは手強いね」 「えっと……?」  またルドルフ様の声が小さくて聞き取れなくて、首を少し傾けると、柔らかに見つめられる。 「ロレッタの新作、楽しみにしてるね。二週間くらいで戻るつもりだよ」 「ルドルフ様、行ってらっしゃいませ。くれぐれも気をつけてくださいね」    ルドルフ様が帰ってくるまでに新作のアイシングクッキーを仕上げようと、私は気合いを入れた。
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