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◇
ルドルフ様が討伐に向かってから一週間と少し。新作のアイシングクッキーも完成して、あとはルドルフ様が帰ってくるのを待つばかり。
「ロレッタ、お使いにいってきてちょうだい」
「はい! 冒険者ギルドに納品ですね」
「今日は少し早いけど、そのまま帰っていいわよ」
「えっ」
「新作のアイシングクッキーを頑張るのはいいけど、寝不足はダメよ」
「……すみません。ありがとうございます」
夜更かししてアイシングクッキーの試作をしていたのは、魔女のみなさんにはバレバレだったらしい。籠に入った魔法薬を持って三軒隣の冒険者ギルドへ向かう。
「こんにちは、魔法薬屋『星降る薬亭』です。魔法薬の納品に来ました」
「やあロレッタ、お疲れさま。確認するから座って待っててくれるかい?」
「はい」
冒険者ギルドはいつも沢山の冒険者がいて賑やかだ。そして、どこでどうやって仕入れてくるのかは分からないけれど、色々な話題が囁かれている。
「そういえば、ルドルフさんが、冒険者辞めるって聞いた?」
「その噂、まじ? 俺も聞いた」
突然聞こえてきた名前に驚いて、いけないことだと思いながら私は耳をそばだてた。
Sランク冒険者のルドルフ様は、冒険者たちの憧れだ。どんな魔物を討伐したか、どうやって討伐したのか、などいつも話題になっている。
「しかも、ゴールデンドラゴンの逆鱗を宝石店に持ち込んだって」
「本当かよ? それって婚約指輪を作るってこと?」
「見た奴が何人もいるから見間違いではないみたいだぜ」
黄金色の炎をまとったゴールデンドラゴンは、鍾乳洞に住む竜。暴れるゴールデンドラゴンをルドルフ様が単身で討伐し、名声とSランクを手に入れた。ルドルフ様の大剣はゴールデンドラゴンの爪で出来ていて、逆鱗は将来を誓う人に贈りたいと話していたというのは有名な話。
ルドルフ様は今まで浮いた噂を聞いたことがなかったけれど、男女問わず人気がある。
わかっていた。あんなに素敵なルドルフ様なら、いつか相応しい人が現れることはわかっていたのに。
それなのに、氷水を頭から突然かぶせられたような気持ちになった。
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