別れられない

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「俺、千晶のこと好きなんだけど。付き合ってよ」  西日の差し込む教室で2人っきり。俺を真剣な眼差しで見下ろす相手が友達だったとしても、雰囲気で頷いてしまいそうになる。顔が赤く染まっているのは夕陽のせいなのか、それとも別の要因なのか、とかドキドキさせて欲しかった……。  廊下の窓からスマホが何台も見えていた。なんなら扉の窓からも見えている。  ドッキリ? 罰ゲーム? どっちだとしても、俺が慌てふためく姿をみんな期待しているんだよな。  だって相手は学校一のイケメンと名高い響。背も高くて運動神経も良く、勉強だって出来る。仲良くなって1年ほど経つが、ダメなところを見つけることの方が難しい。  それに対して俺は何か秀でたものもないし、何もかもが平凡。 「千晶の返事が聞きたい」  黙っていたら響の手が頬に触れる。熱を帯びたような瞳に、役者になれるんじゃないか、と感心した。よく俺相手に笑いもせず、こんな口説くようなことできるよな。ギャラリーに気付かなければ、慌てふためいて挙動不審になっていただろう。  でも、みんなが望んでいる展開なんて見せない。逆に響を取り乱させよう。その方がいい画が撮れるだろう。 「俺も響が好き。付き合おう」  そう言うと響は表情を明るくして俺を抱き上げた。 「ありがとう! 一生大切にするから!」  あれ? 思っていた反応と違う。  戸惑って取り乱す響が見られると思ったのに。  廊下から悲鳴なのか歓声なのか分からない雄叫びが響く。  響に縦抱っこされている俺は状況を理解できなくて固まるしかなかった。  そのまま教室を出ようとするから慌てて止めた。下ろされると手を繋がれる。  教室を出ると口笛を吹く男子や丑の刻参りでもしそうな形相の女子もいて、何が何だか分からない。  ドッキリじゃないの? テッテレー! の音楽と共に『大成功』と書かれたプラカードを待っているんだけど。俺、本当に響と付き合うことになるの?
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