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目が覚めると、俺はゆったりとした椅子に座っていた。
「気がついたな」
俺の前に立っている男が言った。知った顔だ。俺の上司、鷲田警部補だ。
鷲田警部補の右隣にいる男は知らない顔だった。多分、県警本部の人間だろう。左側に立っているのは、白衣を着た女だ。どうやら医者のようだ。
「御手洗。記憶が戻ってよかった」
よかったと言う割には、鷲田警部補は嬉しそうな顔をしていない。
「お前は山の中をさ迷ってるところを発見されたんだ。」
「そうなんですか」
「だが、発見されたお前は記憶を失くしてた。お前の体には傷と打撲の跡が残っていた。頭にもな。記憶喪失は頭を強く打ったせいらしい。だから、この先生に協力してもらったんだ」
鷲田警部補は隣にいる医者の顔をちらりと見た。俺は頭に手を遣る。包帯が巻かれていた。
「催眠療法でお前の記憶を蘇らせてもらったんだよ。知りたいことがあったんでな。それでだ、強盗犯の猪熊の死体が崖の下で見つかったんだ。その傍らにお前のリュックがあった。そして、宝石が入った猪熊のリュックはお前が担いでいた。なぜかな」
「猪熊を逮捕しようとしたんです。あいつが抵抗したんでもみ合いになり、足を滑らせたんです。あいつは崖下まで転落したんですが、私は運よく途中の岩場に引っかかったんですよ。そのとき、私のリュックは下まで落ちたんでしょう。記憶を失った私は、残ったリュックを自分のものと思い込んで担いだんでしょうね」
「違うな」鷲田警部補は首を横に振った。
「じゃあ、私が猪熊のリュックを奪い、彼を崖から突き落としたとでも言いたいのですか」
「猪熊の後頭部に傷があったんだ。落下のときに岩にぶつけた傷じゃなくて、鈍器で殴られた傷と言うことだ」
「……」
「俺の考えはこうだ。お前は背後から石で猪熊の頭を殴った。それから、倒れたあいつを崖から落とした。ところが、まだ意識が残ってたあいつは、落とされる間際にお前の手か足を掴んだんだ。で、お前も一緒に落ちることになった。あいつは運悪く崖下まで落ちたが、お前は運よく途中で引っかかって助かった、と言う訳だ。違うか?」
俺は反論しようとしたが、言葉が出てこない。なぜなら、鷲田警部補の言ったとおりだからだ。
「お前はオンラインカジノに嵌って、多額の借金を作ったんだってな。調べさせてもらったよ」
鷲尾警部補は悲しそうに言った。
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