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薄い、霧が巻いた天気雨の坂道を下っていく。すると、私はある変化に気付いた。
それは、片側一車線の道路にポツリ、ポツリと立ち並ぶ街路灯のランプが黄色だったことだ。
「どうしてこの道の街路灯は黄色なの?」
恭介に向けた素朴な疑問。
「それはね、白灯よりも暖色系の灯りで照らすと立体感を持って物体を良く確認できるから。それと光害を抑えるため」
「ヒカリガイ……?」
「うん」
恭介は私の掌に、長くしなやかな指でスルリと漢字をなぞる。
「光に害と書いて“ひかりがい”。近くに自然が多い環境や天体観測には明るさの影響が少ない照明設計にする必要があって……。たとえば、光には虫が集まるよね。それを『誘虫性』というんだけど、暖色。特に黄色の灯りであれば誘虫性をより低減できるという特徴があるんだ」
「ふーん。なるほどねぇ」
説明を耳にうけながら、暖色の灯で照らされた夜の森も素敵なんだろうと想像する。
三年前に旅行した街、イギリス北西部の湖水地方––––童話ピーターラビット発祥の地でイギリス特有の霧と雨。のどかな田園風景にポツリ、ポツリと浮かぶオレンジ色の街灯。初めて訪れた場所なのに私は幼き日の心象風景を重ねて、一人立ちつくした街––––を重ねていた。
「ねえ。あの街路灯、少し曲がってない?」
等間隔に並ぶ街路灯の一つが他よりも少し上を向いていた。そのことに気付いて恭介に同意を求める。
「ああ、あれね。意図して曲げたんだよ」
何か意味があるんだろうなと思った。けれど、恭介が余りにもサラリと告げるので、追求のタイミングを失う。
私は「そうなんだ」と答えて、街路灯からさらさらと切り離されてゆく虹に目を細めた。
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