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その日、バイトは休みだった。
微睡みから覚醒して、ぼんやりとした意識で眺めていたのは15インチのテレビ。
流れている映画のタイトルはStar Wars
作中で船長ハン・ソロに扮するハリソン・フォードが光の1.5倍の速度を出力する、銀河最速ミレニアム・ファルコン号でワープをする時の映像。
星々が急に点から線になり、指向性を持った星の瞬きが機体の後方に流れてゆき、数多の星間をすり抜けて置き去りにする有名なシーン。
「美喜おきた? 寒い? 何か温かい飲み物でも飲む?」
寝袋から顔を上げると、天文台の開いた天体ドームから下弦の月に淡く照らされた恭介の横顔が、親しみを湛えて問いかけてくれる。
「ん……とっ。大丈夫。私が珈琲でも入れるよ」
珈琲の香り立つカップを二つ持ち、60㎝の反射望遠鏡を覗く恭介の横に並んだ。
とても静かで、森の奥から時折フクロウの鳴き声が聞こえる。わずかに開いた天体ドームからは、無数の星の瞬きが夜空をうす蒼く滲ませていて、深夜の冷んやりとした湿り気のある外気が、この静寂を神聖な時間へと昇華する。
たぶん、この世で最も美しい時間の一つなんだと、私は思う。
「覗いてみる?」
「うん」
恭介にカップを渡す刹那キスをされて、離すと恭しく「どうぞ」と言われて体を入れ替えた。
望遠鏡を覗くと肉眼では砂粒程の小さな星が飴玉ぐらいに大きく見えて、視界いっぱいに星空が広がる。すると、スッ、スッ、と大小の流れ星がときどき視界を横切った。
みずがめ座δ流星群 。
極大期は明日から一週間。
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