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「眺めながら聞いてほしい」 私の耳元で、恭介の囁きが、少し熱い。 「うん」 「流れ星に願い事をすると願いが叶う。一度は聞いた事があるだろう?」 「流れ星が見えている間に、願い事を三回唱えるとか?」 恭介は「そうだね」と言って珈琲を一口。 レンズ越しに星が流れる。 「色々な話があるけど、俺が好きなのは“神様のドア”の話。知っている?」 「何それ? 知らない」 「流れ星は、夜に神様が地上の様子をこっそり覗くため、『天の扉』を少しだけ開けた時にこぼれ漏れる光。 神様が天の扉を開けている時は、神様が自分を見ているから、その瞬間に神様と繋がることができて願い事が叶う。 ただし、ドアが開いているのは一瞬だから、流れ星が出現したのと同時に、神様の耳に届くように願いごとを唱えなければいけない」 また二つ。恭介が話す間に星が流れた。 子供の時分にどうしても眠れなかった夜。 カチャリ、と暗い部屋のドアが開いて、薄目の私に、まぶしい廊下の光がドアの隙間からこぼれ漏れてくる。  母が寝た振りをしている私のおでこにキスをして、そっと帰って行く。母の愛に満たされた私はその姿勢のまま、閉まりゆくドアからの光を眺めていた。 恭介の話を聞いてその事を思い出し、少し、むかしを懐かしんだ。 「いい話だね。とてもロマンティック。でも星の流れが速すぎてどうしても願い事を言い切れないよ」 私がつぶやくと恭介はくすりと笑った。 「うん。そうだね。流れ星の話しの良い所は、一瞬の間に願いを唱えることが限りなく難しいって事だね。だからそこに色んな解釈が出来て、ロマンティックなんだよね」 「でも……」 と、恭介は言葉を区切る。 「星の流れが絶え間なく続いて願い事が叶うとしたら、美喜は何をお願いする?」 ワントーン声が低くなり、私を試す様な、瞳に熱がこもった眼差しで私を見つめていた。 「あなたの願いが叶うとしたら、何を願う?」
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