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翌日から一週間、夕方から天文台を一般客に開放した。みずがめ座δ流星群に属する流星数が多くなる時期で、日没後から夜半過ぎまでは流星観測の好条件になるためだ。
アマチュア天文台といえども、一般には普及してない60㎝の反射望遠鏡を覗きにきた客でレストランは賑わった。
「ミキちゃーん! 四番テーブルに日替り二つ持って行って」
「はーい」
「ミキちゃん、お客様のお会計お願い!」
「はーい!」
「ミキちゃーん」
「は––い!!」
嵐の様にクルクルと立ち回りをして気がつけば夜の九時を回っていた。日が暮れるまで働いたのは初めてだった。帰り仕度を終えて店の入口に向かうと、背後から声をかけられた。
「お疲れ様。ミキちゃん」
「お疲れ様です」
口髭を蓄えた、レストランのマスターだった。
「恭介はまだ迎えにきてないんだね」
「はい。きっと忙しいんだと思います。だから今日は一人で帰ろうと思ってます」
私が答えると、マスターの目が大きくなった。
「えっ、ミキちゃん何も聞いてないの?」
マスターが余りにも驚いて聞くので、それを聞いた私が驚いてしまった。
「聞いてないって何の事ですか?」
「あっ、いや、聞いてないなら別にいいんだ……そうだ! コレ」
急に歯切れが悪くなったマスターが私に差し出したのは、大きい透明のビニール傘だった。
「今、雨が降り始めたから」
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