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今日一日に遭った出来事を自己満足に喋ると、少し気分が落ち着いた。ただ話を聞いてもらうだけで良い。彼女はまだ夢の中かもしれない、それでも私は二人だけのこの空間が好き。
「あっ、そうだ。今日ね、やっと届いた」
雨に濡れた袋の中から、まだ汚れを知らない純白のドレスを取り出した。高校生には過ぎた買い物だと分かっている。ただ純粋に彼女の神秘に包まれた姿を一目見たい……ただそれだけの理由。
「着替えもできないの? 仕方ないなぁ」
慣れた手つきで彼女の制服を脱がしていく。ブレザー、カッターシャツ……一枚ずつ丁寧に。露わになった彼女の色白く細身の柔肌にはどす黒い痣がいくつも残っている。それを隠すようにしてドレスを通す。
彼女が無抵抗に体を預けてくるせいで着せにくい。時より彼女のじっとりとした肌が不意打ち気味に体に触れて思わず鼓動が高鳴る。
「綺麗……」
感嘆の声を漏らす。純白のドレスに身を包んだ彼女は、まるで人形のようで同じ人間とは到底思えない。想像していたよりもずっと儚くて可愛らしい。こんな眼福なものが見られたんだ。
頑張って着せた甲斐があったし、ドレスをプレゼントして本当に良かった……。
「実はね、もう一着あるんだよ?」
今度は自分用のドレス。不愉快なシャツを床に叩きつけ、ドレスを手に取る。この十六年間にそんなイベントごとは一切なかった。彼女に着せるのさえ大変だったのに、自分で着るには抵抗があるせいでもっと時間が掛かってしまう。
「どっ、どうかな……似合う? 本当は同じ物だったんだけど……」
私の着ているドレスは純白というには薄汚れており、無惨に切り刻まれたような形跡がある。元は同じ物なのに、彼女が着ているドレスとは天と地ほどの差がある。
「お揃いだね。ほんと……」
足の踏み場もない程に散らかっている部屋、ドレスに身を包んだ私は今あまりにも幸せを感じている。
ふと彼女の腕に目がいく。色褪せた彼女の生きた証が指先までびっしりと刻まれている。まるで存在証明をしているそれは私を安心させる。
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