1・満天の星

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 そんなぼくと勇飛さんについて、話そう。  ぼくの夫は、在野でオメガ福祉について研究しながら、神戸市内にある国内有数の、偏差値上位の有名大学に併設された大学図書館で副館長をしている。アルファだ。名前は、新崎(にいざき)勇飛。  ぼくの名前は塚原(つかはら)りく。勇飛さんとは、十四歳年が離れている。ぼくは二十八、勇飛さんは四十二。ぼくはオメガだ。  ぼくたちは、政略結婚である。現在の日本では、アルファ―オメガ間だけ、同性同士でも結婚が認められている。勇飛さんは、家系的に非常に高学歴で、重要な発見を次々としてきた、華やかな業績を誇る研究者の一族に生まれた。 (勇飛さんの家系は、オックスフォードやケンブリッジ、マサチューセッツ工科大など、名だたる大学出身者を輩出している。勇飛さん自身もオックスフォード出身だ)  ただ、新崎一族に財は無い。研究に莫大なお金を使うのが原因。そのうえ、その成果を世間に広く浸透させ、公益としてもらうためにも、惜しみなくお金を使うからだ。  一方、ぼくの家は国内屈指の大銀行家。うちの家と勇飛さんの家がタッグを組んで、「我が息子をご子息の番に」と話がとんとん拍子で進んだのは、元々曽祖父の代から両家の仲がよかったためだった。  とはいえ、周りには「金目当ての結婚」と囁かれる。それに、「大銀行家の家にふさわしくない嫡男を、ていよく片付けるため」とも。うん、それはその通り。  頭がよくて、アルファには珍しくオメガ差別を嫌い、倫理感も責任感もしっかり備えている「できた人」勇飛さん。  対してぼくは金持ちのぼんぼんで、世間知らずで、おまけに性的にだらしないところがある。そのうえ自由奔放で、オメガのわりに自分を卑下しないところが、「生意気」と人々から悪感情を持たれてきた。「政略結婚」「釣り合ってない」「醜悪なカップル」と、付き合い始めたころから世間に陰口を叩かれている。  ぼくたちは、決して似合いの夫婦じゃない。それはわかっている。勇飛さんも、ぼくのことはタイプじゃないと思う。本人の口からは聞いていないけれど、彼はきっと可憐な「女性」がタイプなのだ。  でも、それでもぼくたちは上手くやっている。夫婦として、番として。  そう――なぜなら勇飛さんは、ぼくに思いもよらない「アミューズ」をくれるのだ。
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