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一時間くらい電車に乗り、車内に人がほとんど居なくなった頃に ようやくヤス子は『着いたよ』と椅子から立ち上がった。
2人降りた駅は無人駅でホームの中の狭い待ち合い室の電球はもうすぐ切れそうな合図を出していて そのかすかな明かりには小さな虫がブンブン言いながらたかっている。
こんな田舎町にヤス子はいったい何の用で来たと言うのだろうか。ずっと黙って歩いているヤス子を禄助は黙って見ていた。
ヤス子はそれからもずっと黙って歩き続けた。駅からはどんどん離れて行き コンビニすら無い山道をただただ禄助は歩かされた。
『足元気をつけてね』とヤス子がようやく口を開いたので『何処に向かってんだ?』と禄助は尋ねた。
ヤス子はまた黙ってしまった。
30分くらい歩いた頃だろうか。
だいぶ山の深くまで来てヤス子は立ち止まると、目の前にある1本の太い木の根元に ずっと大事そうに抱えていたヒヤシンスの花束を置いた。
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