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通販のお知らせ・番外編サンプル
【通販のお知らせ】
先日は『ラスボスの使い魔に転生したので〜』と『冤罪悪役令息は甘い罠から逃げられない』を読んでくださりありがとうございました!
この2作品を収録した新刊『執着攻め×異世界転生・小説集』の紙書籍が、メロンフロマージュ様で通販開始となりました!
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裏表ともはやし先生の美麗なイラストがついています。
どうぞよろしくお願い致します。
以下、番外編のサンプルです。
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激しく濃厚な初夜を過ごした翌日の昼下がり……――。
(し、死にたい……)
疲労困憊でベッドから起き上がれないでいるシリルは、心の内で半ば本気でそう願った。
もちろんその原因は、昨晩の情事に他ならない。
最初こそ抵抗していたシリルだったが、徐々に強烈な快楽に呑まれ、メスとして抱かれることにこの上ない喜びさえ覚えてしまった。
「――っ、うわぁぁぁ!」
昨夜のことを思い出し、シリルは頭を抱えてベッドの上で転げ回った。
契約の効力で強制されたならまだ言い訳がつくが、与えられる快楽を自ら望んでしまったのだから始末に負えない。
(と、とにかく、逃げないと……! このままここにいたら本当に……――)
――ふふっ、ちゃんと可愛いメス猫になれたねぇ、いい子いい子。
ギディオンの嗜(し)虐(ぎやく)的(てき)な艶めかしい声が脳裏に蘇って、ぶわっと、背筋に悪寒が、昨晩の行為ですっかり染み込んだ淫らな熱と共に駆け抜けた。
(このままじゃだめだ!)
危機感を覚えたシリルは、重い体に鞭(むち)を打ってベッドから出た。
幸いにも、ギディオンは朝方『今夜もがんばれるように、シリルにいいもの買ってくるね』と不吉な言葉を耳元で囁(ささや)いて買い物に出かけていた。
家を出るなら今しかない。
シリルは急いでギディオンのシャツを着ると、バックに食べ物をいくつか詰め込んで、玄関の扉に手をかけた。
しかし……、
「あ、開かない……!」
押しても引いても扉は開かない。
シリルは慌てて家中の窓や扉を確認したが、どこも鉄でもはめられているように固く、びくともしなかった。
試しに、窓ガラスを割ろうと椅子を投げつけてみたが、ヒビひとつ入らなかった。
(え? これってもしかして絶対に外に出られない感じ……?)
自分の置かれている状況に、たらりと冷たい汗がこめかみに流れた。
自分は一生、ギディオンに飼い殺されることになるのか……と絶望的な気持ちに覆い尽くされるシリルの頭に、よく知った者の声が降ってきた。
「おーい、シリル、いないのか?」
天井付近の窓をコツコツと叩いて、シリルを呼ぶ声。それは、いつも真偽の怪しい噂を運んでくる友、コゼットのものだった。
シリルは勢いよく顔を上げた。
「……っ、コゼット!」
本来なら、いつものようにすぐさま壁の棚を伝って窓まで上がっていきたいところだが、人間の姿となったシリルにそれは難しい。
シリルはすぐ近くの窓まで駆け寄り、拳を激しく叩きつけて叫んだ。
「コゼット! コゼット! こっちだ! 下に来てくれ!」
この機を逃せば二度とここから出られないかもしれない、とシリルは死物狂いで窓を叩いた。
その必死さが届いたのか、しばらくするとコゼットが窓辺まで降りてきた。
人間になったシリルの姿を見て、コゼットは最初、目を見開いて後ろに軽く飛び退いた。
しかしすぐに窓に近寄り、シリルを上から下までまじまじと見つめた。
「……もしかして、シリルか?」
「……っ! そうっ、そうだ! シリルだ!」
訝しげだが、自分をシリルだと認識してくれたコゼットに、目を輝かせた。
「よくこの姿で俺だと分かってくれたな!」
「その目つきの悪さでそこまでマヌケな感じを醸(かも)し出せるのはお前くらいなものだからな」
憎まれ口を叩くコゼットだが、そのいつもの軽口がかえって有り難かった。
「どうしてそんな姿に……って聞くまでもないな。お前のご主人様、溺愛がすごいとは思っていたが、ここまでくるととんだ変態野郎だな」
全てお見通しのようで、コゼットは頭を振って溜め息をついた。
「そうなんだよ、とんでもない変態野郎なんだよ! 昨日なんか……――」
自分がいかに危機的状況にあるかを伝えるため、シリルは昨晩のことを洗いざらい話した。……もちろん、快感に溺れ自らギディオンを求めたことは、自分の名誉のために伏せておいた。
話を聞き終えたコゼットは、顔を引き攣らせた。
「……俺の想像を遥かに超えたド変態野郎だな」
「だろだろ!」
共感を得て、思わず嬉しくなる。
(やっぱりあいつが超弩級の変態で、きっとそのせいで昨日は俺もなんか変な感じになったんだ)
うんうん、と心の中で頷いて、昨晩の己の媚態に言い訳をする。
「それで折り入って、コゼットにお願いがあるんだけど……」
「なんだ? お前があまりに哀れすぎるからきいてやる」
「あ、あのさ、コゼットの子分になるって話、まだ有効? 有効ならここから出るのに協力してくれないか……?」
シリルはおずおずと協力を求めた。
今の話を聞いたら、できれば関わりは避けたいだろう。
事実、コゼットも「うーん……」と羽を組んで唸っていた。
しかし、しばらくすると意を決したように顔を上げた。
「……危ない橋は渡らない主義だが、仕方ない。子分にしてやるよ」
「コゼット……!」
窓がなければその体に抱きついていただろうというくらい、シリルは感激した。
「ありがとう! それじゃあ手始めに、上空から勢いをつけてその硬いくちばしでこの窓を突き破ってくれない?」
「おい、さっき『椅子を投げつけてもヒビひとつ入らなかった』って言ってたよな? そんな強固な窓に俺をぶつけようっていうのか? 死ねっていうことか?」
「いや、別にそういうわけじゃ……」
全く他意はなかったのだが、確かにもし失敗すればコゼットもただではすまないだろう。
早くこの危機から脱したいばかりに、配慮に欠けていた。
「ごめん、そこまで考えてなかった……」
しゅん……、と尻尾と耳を垂らしてシリルが謝ると、コゼットはやれやれと言わんばかりに頭を振った。
「まったく、シリルは人間になっても脳みそは猫サイズなんだな。……仕方ない」
コゼットは溜め息をひとつ残して、上空へ飛んで行った。
(え? まさか本当に決行するつもりじゃ……?)
シリルは慌てて窓に顔を貼り付け、空を見上げた。
しかし、コゼットは特段勢いつけることもなく戻ってきて、ふわりと軽やかに窓辺に降り立った。
「言っとくが、その窓、かなり強力な魔術結界で閉じられているぞ。恐らく結界が破られれば、すぐにそのことがお前のご主人様にも伝わるようになっている」
「えっ!」
窓のふちを羽先で撫でながら言うコゼットの言葉に、目を剥く。
確かにこの異様な強固さは何かしらの魔術を使っているとは思っていたが、まさかそんな厄介なものだとは思いもしなかった。
「それって絶対に脱出不可能じゃん……」
シリルは絶望的状況に頭を抱えた。
「心配するな。今、空からお前のご主人が帰ってきてないか確認したが、目視できる距離にはいなかった。ということはつまり、今その結界を破ってもすぐには戻ってこれないということだ。……窓を開けたら、すぐ出るぞ」
いつになく緊張しきった声で言うと、コゼットは何やら呪文らしきものを詠唱して、羽の先でするりと窓を撫でた。
すると、これまでびくともしなかった窓がひとりでに開いた。
「あ、開いた……!」
「ボケっとしてる時間はないぞ、急げ。今ので確実に奴に結界が破られたことは伝わっている。とりあえず俺の巣まで行けば大丈夫のはずだ。だから急げ」
驚愕のあまり呆けているシリルに、きびきびとコゼットが言う。
「コゼットってもしかして、実はものすごくスゴイ奴……?」
「実はとは何だ、実はとは! もともと俺はすごい!」
失礼な物言いに立腹しつつも、寄越される純粋な尊敬の眼差しが心地よいのだろう、コゼットは得意げに胸を張った。
「おっと、俺のすごさにひれ伏すのは後だ。時間がない。一刻も早くここから立ち去――」
コゼットの言葉を遮ったのは、耳の傍を凄まじい速さでかすめた轟(ごう)音(おん)だった。
音を認識した時には、鼓膜を打ち潰すほどの衝撃音と共に目の前の窓だった部分は消え去り、ぽっかりと穴が開いていた。穴の縁からは煙が細く立ち上っている。
何が起こったか、シリルにはすぐに理解できなかった。
ただ、とんでもないことが目の前で起きたことだけは分かった。そして、こういうとんでもないことを起こせる人物は、シリルの知る人物でひとりしかいない。
「――いやぁ、ごめんごめん。びっくりしたよね。シリルは大きい音、苦手だもんね。でも、怒りのあまり魔力を抑える余裕がなかったんだ」
背後から弁解してくる猫なで声に、ビクッと耳と尻尾が立ち上がる。
恐る恐る振り返ると、そこにはドス黒いオーラを纏(まと)ったギディオンが、笑顔で立っていた。
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