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なにはともあれ、猫の可愛さがいかに人間の心を癒やすかは身を持って知っている。
だからこそ、ギディオンを心の闇から救い出し、人類滅亡エンドを回避できると確信していた。
事実、自分を癒やしてくれた猫たちを手本にしてギディオンにペットセラピーを施してきたが、それは抜群の効果を発揮していた。
****
「食ったぁ〜」
腹いっぱいごちそうを食べたシリルは、ギディオンの膝の上でごろりと仰向けに寝転がった。
「ふふ、シリルが満足そうで僕も嬉しいよ」
シリルの腹を撫でながらギディオンが愛おしげに目を細める。
その腕に顔を擦りつけると、ギディオンの目尻がさらに緩んだ。
やはりペットセラピーの効果は絶大だ。今のギディオンに世界滅亡を望む心など皆無に違いない。
こうして人知れず世界を救っている自分を褒めてやりたいし、何なら全人類から称賛を受けたいくらいだ。
シリルはフンと得意げに鼻を鳴らした。
「それにしても、悪いな。せっかくギディオンのお祝いなのに、俺からは何もしてあげられなくて」
「いいんだよ。気にしないで。……あとでたっぷりしてもらうから」
「え?」
「ううん。何にもない。それより食べすぎて疲れたでしょう? 今日は早く休むといいよ」
そう言ってギディオンがシリルの顔の前に手をかざすと、温かな光が体を包んだ。
恐らくヒーリング系の魔術の一種だろう。そのひだまりのような温もりに、シリルはうとうとと眠ってしまった。
目を覚ますと、シリルはベッドの上にいた。いつもギディオンと一緒に寝ているベッドだ。しかし、なぜだか体に妙な違和感を覚えた。
そうだ、今日は異様に寒いのだ。人間に触られすぎて毛を短く切られた時のことを思い出すほどの寒さだ。
「……っ、さむ」
思わず手でシーツを引っ張った。
(……ん? 手?)
シリルは自身の手を見て飛び起きた。
「えっ!」
自分の前足をまじまじと見つめる。しかしそこには魅惑の肉球付きの猫の足はなく、代わりに人間の手があった。
「え? え? ええっ?」
体や顔をくまなく触るが、どこにもふわふわの毛並みはなく、つるりとしたその肌は人間そのものだった。
慌ててベッドから飛び出て鏡に向かう。そこには冴えない男の姿があった。
「な、なんで? ……痛っ!」
勢いよく鏡に顔を近づけた拍子に、額をぶつけた。その痛みにこれが夢でないことはよく分かった。
もしかするとこれまでの使い魔だったというのは自分の悪い夢だったのではないかと思ったが、その考えはすぐに却下された。
なぜなら……――。
「なんだ、この中途半端に残った猫耳と尻尾は!」
頭上の両耳を引っ張りながら半狂乱で叫んでいると、部屋のドアが開き、ギディオンが現れた。
「あ……」
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