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「皆さん、そろそろ僕に慣れましたよね? どなたか僕をテーブルに載せてもらえませんか」
「何ですって?」
思わず叫んでしまった。
「僕からは皆さんの顔が見えないんですよ」
「でも、勝手に動かしていいのか?」
「ミステリードラマでは遺体は動かすなって言うけど、すでに自分で動いちゃってるしなあ」
窪田と小杉が首を傾げる。
「それ以前に人の頭を持つのって……」
首里が口ごもったのは、生首の男に気を遣ったためだろう。
「僕がやりましょうか。それと、僕にも珈琲のおかわり下さい」
「えっ?」
二杯分の珈琲をトレーに載せていると、目の前に黒縁メガネをかけたヒョロリと背の高い男性が立っていた。若そうなのに人生を諦めた様な目をしている。
「あっ、かしこまりました」
この異常事態で店内にもう一人、客がいることをすっかり忘れていた。
「ーー僕がやりましょうかと言いました?」
「タオルか何かを貸していただければ」
なぜ、そんなに冷静にいられるのだろうか。
「もしかして、お医者さんとか?」
「いえ、ただの乗り鉄です」
遠くで臨時列車の発車ベルが鳴った気がした。
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